『日本国紀』「男系誤謬説」への誤解を糺す

問題の所在

前回「【悲報】『日本国紀』、「男系」の意味すら間違える【ビックリ】」という記事で、『日本国紀』において「男系」とは「父親が天皇」であると百田尚樹氏が定義していることを根拠に、「男系」という語への無理解を指摘しました。

その後、当該記事へのコメントや、ツイッターなどで、「その直前の節で百田氏は男系を正しく理解している」ことや、「父親の語は父方などの誤植ではないか」といった推論を頂きました。

そこで、このコラム全体を通して、今一度、百田氏が「男系」について謬見を抱いている可能性が濃厚である点を指摘します。

二つの記述をどう解釈するか

問題となるコラムには、次の二箇所、「男系」に関する記述が確認されます。

【記述①⇒◯】

男系とは、父、祖父、曾祖父と、男親を辿っていけば、祖先に神武天皇がいるという血筋を持っていることを言う。

 百田尚樹『日本国紀』幻冬舎, 2018, p. 33

【記述②⇒✖】

日本には過去八人(十代)の女性天皇がいたが、全員が男系である。つまり父親が天皇である。

 百田尚樹『日本国紀』幻冬舎, 2018, p. 33

このうち、記述①は「男系」を正しく表現できていますが、記述②は誤りです。なぜなら、父親が天皇でなくとも即位した天皇が複数人いるからです。この記述②を取り上げて、前回、私は『日本国紀』の「男系誤謬説」を提起しました。

不可解な反論の非論理性

ところが不思議なことを仰る方が複数人出てきます。その主張の内容は、その前の記述①だけを重んじて、加えて記述②が誤植だと言い出すのです。

このように記述①に基づいて記述②を誤植と決めつける前に、次の三点を考慮する必要があります。

  • 仮に記述①と記述②が矛盾する内容であり、両者が共存できないならば、正しい①に基づいて誤まった②を修正することは合理的である。
  • 然し記述①と記述②は共存できる定義である。つまり『日本国紀』は「男系」について「天皇の父親が天皇であるから、その祖先には必ず神武天皇がいる」(①+②)と理解していたと考えられる。
  • このように読めば記述①②とも矛盾せず、さらにコラム全体を調和的に(もちろん間違っているが)読むことができる。にもかかわらず、わざわざ記述①に基づいて記述②を修正する案は、一種の善意解釈であって、単に読者が記述①が正しいことを後知恵で知っているに過ぎないゆえのものである。

つまり、記述①に基づいて記述②を修正する必然性は全くないのです。そのように正そうとしてしまう理由は、端的に言えばその人が百田氏のファンだからであり、こんな根本的な錯誤があって欲しくないという願望の発露に過ぎません。記述①と記述②が共存できる以上、記述②の内容は字義通りに有効だと考える方がよほど自然です。

ある方が次のように仰ってくれた内容は、大変示唆的です。

その通り。「父親が天皇である」と書かれている以上、『日本国紀』の「男系」定義に間違いがあることは揺らぎようがありません。前段の説明を併せて読めば、それ以外も解釈も可能と仰っていますが、既に述べてきたようにそれを積極的に採用する動機は乏しいように思えます。さらに「間違っている部分程古い」という文章校正の金言に則っても、やはり錯誤的記述が残された場所ほど百田氏自身の思想に遡りえると評価できるでしょう。

根本的かつ致命的なミス

今回の『日本国紀』において、このような「男系」の記述に錯誤があったことは、根本的かつ致命的なものであると思います。「男系」の知識のない読者は、これを読んで「男系」とは「父親が天皇」であると勘違いしてしまう恐れがあります。

ましてこの本は『日本国紀』という名を持つ書です。さらに著者の百田尚樹氏、編集者の有本香氏、監修者の久野潤氏、江崎道朗氏、上島嘉郎氏、谷田川惣氏はいずれも保守論壇誌で活躍する論客であり、皇統の尊さを重んじる方々であると信じています。にもかかわず、その根本である「男系」の意味すら間違えたまま発刊してしまった咎の重さは計り知れないでしょう。

恐るべきことに編集者の有本香氏はヘビのように入念にチェックし、わずかでも疑問があれば容赦しなかったそうです。果たしてどうして「男系」の誤謬を見逃すことができたのか。

複数人で何百時間も編集・校正をしていたそうです。

更に百田氏は、『日本国紀』に書かれていることはすべて事実だと述べています。これほど厚顔無恥な発言はなかなかないでしょう。

沈黙を続ける一同

以上、「男系」に関する『日本国紀』の誤謬は、根本的かつ致命的なものであり、保守論壇の信頼性を大きく損なうものです。さらに残念なことは、本件をリプライにて関係各位に送信しても、なぜか未だに全員黙り込んでいることです。

余りに錯誤の内容が単純かつ深刻なもので、どの様に対処すべきか判断しかねているのではないかと想像します。しかし、これはぜひ早急に訂正のコメントを出すべきでしょう。間違えない人などいません。むしろこのような大変な状況で過ちを認めることができてこそ、保守の目指す「美しい日本の心」なのではないか。研究や論壇で自分の過ちを認めることは大変苦しく、私自身苦い経験が余多あります。ですが、その様な時に天下に謝罪し修正してこそ、保守は尊敬を得られると確信しますし、少なくとも(本件に関しては)私は尊敬の念を抱かずにはいられないでしょう。

【追記】その後、第四刷で「男系」の記述がこっそり修正されていました。

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12 件のコメント

  • ヒストリー history の語源は His story であり、He  はすなわち 創造主なる神であり、我々でも 天皇一族でも ないでしょう。
    日本国紀 って 日本書紀 の もじりでしょうか?

  • 残念ながら本文が若干挑発的で、せっかく重大な問題点を掘り出したのに日本国史擁護派の要らぬ反発を呼んでいる(失礼ながら、今の告発の仕方では「揚げ足取り」として最初から対話拒否されても仕方ありません)ようなので、僭越ながら論点をまとめさせて頂きます。
    百田氏を嘲るよりも、冷静に客観的に問題点をまとめ、擁護派の方々に筆者の方の考えを正しく理解してもらう方がよほど効果があると考えます。人格批判の応酬とならぬよう、お願いいたします。

    ・男系について説明された記述が2つ存在する
    ・そのうち2つ目はどう読んでも「すべての女性天皇の父は天皇」としか読めず、明らかな誤りである(反例:皇極天皇、元正天皇)
    ・1つ目の記述は問題ないが、2つ目の誤りをカバー出来る物ではない

    ・以上の問題点は、確かに日本全史を扱う分厚い本の中では些細な点に過ぎない
    ・しかし真の問題は、これが天皇家系図についての基本的な知識があればあり得ないミスであるということ、またそれが明らかなミスでありながら、厳重と称する検証校閲を経ても訂正されず、出版に至ってしまったと言うことである
    ・自信満々にすべて事実が書かれた本と称していながら、(現代の皇室問題に直結する基本概念である)「男系」について、初めて歴史を学ぶような純粋な読者に誤った理解を与えるような明確な誤りが放置されているのはいかがなものが

    • 大変貴重かつ冷静な御批評感謝申し上げます。いささか自己弁護させていただきたいと思います。頂いたご助言の内容は重々理解しているつもりです。しかし冷静に述べてそれを誰が読むでしょうか? たとえば慰安婦問題や南京事件などについて非常に優秀な非保守サイトが余多あれど、ネトウヨらはそれを見ようともしません(Wikipediaですら読んでいません)。読み手がいなければ言論は意味がない。本ブログ開設の動機はそこにあります。つまり、そうではなく多くの方に見ていただき、どれくらい現在の「保守論壇」と呼ばれる方々が、学問的にはほとんど無価値で、所詮「ビジネス」でしかないことを解っていただきたい。もちろんビジネスであることを否定するわけではありません。それは言論を続けるうえで欠かせない要素です。

      しかしビジネスが余りに優先してしまい、「論壇」にあるべき本来の姿が大きく失われてしまっていることは本末顛倒ではないか。特に今回の「男系」に関するミスは、保守論壇においては根本的かつ重大なミスでなければなりません。にもかかわらず、筆者や編者らは、ビジネス(およびプライド)が優先してしまい、誤りがあると知りながら謝罪も訂正もしない。そんな哀れで滑稽な論客たちの姿を皆に見てほしいのです。

      真の保守かネトウヨかの分水嶺が、まさにこの自称保守たちの姿に違和感を感じるかどうかにあると感じます。私はこれだけ挑発的にブログをつづっていますが、私に賛同・応援してくれる保守・右寄りの方も多くいることを知りました。健全な議論の礎になることを期待します。

      • はじめまして
        松島と申します。

        失礼ながらツイートだけを拝見していた時は「些細なことにえらく粘着する人だなぁ」と思っていました。
        こちらのコメントを拝見して、はじめて「あぁ、そういう意図もあったのか」と納得しました。

        極右でもなく、極左でもなく、中道やや右寄り
        男系女系、万世一系など、言葉は知れども意味不明、そんな情弱な一般ピープル的な視点からの感想ですが、百田さんサイドは間違いなら間違いと認めて謝ればよし、ろだんさんは色々意図があるのは理解出来ますが、しつこくてなんか格好悪い。

        そのしつこさが「揚げ足取り」や「鬼の首でも取ったかのよう」「悪意をもって貶めようとしてる」に見えてしまう。

        八人の女性天皇の名前も知らないし、父親が天皇なのか父系が天皇なのか、そんなに深く興味ないです。
        男系天皇が続いている万世一系を私のような素人に説明する目的のコラムでは些細な間違いと感じました。

        歴史を学ぼうとする人や専門家ならば間違いにすぐに気づくでしょうし、この「日本国紀」を参考書にはしないでしょうから、憂慮されている悪影響はさほどないと思います。

        • コメントありがとうございます。仰る通り「間違いなら間違いと認めて謝ればよし」とは同意見です。なかなかそれができないのが保守論壇界、そしてそれをツッコみまくるのが非保守の、ある意味で「宿命」あるとご理解ください。
          またこの記述を真に受けて信じて、絡んでくる保守の方が本当に多いことを知りました。このような影響力の大きさからしても(かつこの本は中韓に対して排他主義的内容を持っていることからも)、叩かれて然るべきであると判断いたします。

          • 返信感謝致します。
            私はどちらかというと百田さんの著書はや主張は好きですし、出来れば擁護もしたい立場です。
            ただ、間違いは間違い。是々非々を信念としておりますので、論理的ではない詭弁や言い逃れなど感情論での多くの擁護意見を見ると嫌になります。
            ネットではパヨク、ネトウヨなどの罵り合い、粗探しして引きずり降ろすことに執着し己の主張はファンタジー
            国会では議員としての職務そっちのけでの足の引っ張り合い
            左翼も右翼も体面とお金を追求し、本来の主張などどこ吹く風
            見ているだけで疲れます。

            ろだんさんがそのような輩に感化されぬよう心よりご健闘をお祈り致します。

          • もし感化されたとご判断されたなら是非ご叱責くださいませ。感化されていたら聞く耳持たぬでしょうが(笑)

  • 「記述①は『男系』を正しく表現できていますが」、というのが結論でしょう。
    後は些末な言いがかりにしか見えません。

    • あなたの言っていることは詭弁です。②で間違えているということは、①が正解であろうとも「百田氏が男系を理解していなかった」ことに変わりありません。反論があればどうぞ。

  • 只今『日本国紀』の第4刷を読んでいますが、記述②の「つまり」以下の部分は、「つまり父親を辿ると必ず天皇に行き着く。」となっています。修正したのですかね?どうなのでしょう。

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