【トンデモ】「日本は、大東亜戦争で人類最高のよいことをしたのだ」(安住順一『現代教育科学』49(8), 2006, pp. 49-52)

巷で話題になっていた論文「日本は、大東亜戦争で人類最高のよいことをしたのだ」を、さっそく国立国会図書館で入手してみました。(入手先リンク

はじめに

この衝撃的なタイトルの論文は、雑誌『現代教育科学』の「特集「あの戦争」を子どもにどう語るか」という小中学生教育特集のなかに収められています。論文の著者である安住順一氏は、小学校の先生のようです。雑誌の編集後記によれば「日本の側からすれば「大東亜戦争」は自衛戦争であったという主張もありますが、中国側からすれば当然「侵略戦争」であったと強調されるでしょう」ということで、左右両立場から公平に描こうと努力した結果、かえって極端になってしまったということなのでしょうか(と思いきやakabishi2様のご指摘によれば、思いっきり右巻きの方々だそうです)。さて、この論文の章割りは以下の通り。

  1. 人類最高のよいこと
  2. ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム
  3. 日本は自衛の戦争をした
  4. リメンバー・パールハーバー

保守ウォッチャーなら、この章割りを見ただけでその内容におおよそ察しが付く筈。その予想を裏切らず、本論文の内容は、渡部昇一など保守論客の言説を見事にまとめたものとなっています。

人類最高のよいこと

まず第一章「人類最高のよいこと」の冒頭では、アムステルダム市長サンティン氏(正確にはヴァン・ティン van Thijn氏らしい)の発言が引用され、第二次世界戦後にアジア諸民族が植民地支配から脱して独立したことが、日本軍のおかげであると強調されます。タイトルにもある「人類最高のよいこと」は、サンティン氏が発したとされる次の一文に確認されます。

あなた方こそ、自らの血を流して東亜民族を解放し、救い出す、人類最高のよいことをしたのです。

そして安住氏は、サンティン氏の発言を次のようにまとめます。

ヨーロッパの文化人や識者は、あの戦争は日本の方が勝ち、攻めた白人たちの方が負けて、植民地から追い出され、西洋の古巣に戻されてしまったことを知っているのである。

つまり、論文のタイトルにもなっている「人類最高のよいこと」とは、大東亜戦争で日本軍がアジアから白人を追い出した結果、アジアの諸民族が戦後独立を達成したことです。これに続いて、大東亜戦争を植民地解放と位置付けて日本に感謝するアジア諸国の声が紹介されます。具体的には、マレーシアのラジャー・ダト・ノンチック元上院議員、インドネシアのサンパス元復員軍人省長官、インドネシアのブン・トモ元情報相の発言です。これら諸発言は保守論客が好んで引用するものであり、よく知られているものですが、そのソースは必ずしも確かなものではありません。どうやらこれら諸発言の初出は、仙頭泰「大東亜戦争を世界はいかに評価しているか」『アジアと日本の大東亜戦争:終戦50周年をむかえて』(日本を守る国民会議, 1994)のようです。

ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム

第二章「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム」では、戦後GHQの占領政策が取り上げられ、

日本が再びアメリカの脅威とならぬよう、徹底した情報・教育面からの洗脳工作が行われた。その政策が「戦争責任周知徹底計画」(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)である。

日本人自身が、日本人を全否定するよう誘導し、日本を断罪することによって「アメリカの正当化」を図ろうとしたのである。

と断言されています。占領期にGHQが厳しく検閲を行い、戦前・戦中に刊行された書物を焚書扱いにした事実はよく知られます。 論文中で安住氏はこの「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム 」を「洗脳工作」と位置づけています。つまり、大東亜戦争で日本は「人類最高のよいこと」(植民地解放)をしたにもかかわらず、戦後GHQの「洗脳工作」によって日本人自身がそれを評価できずにいる、というのが論文の主張のようです。

日本は自衛の戦争をした

続く第三章「日本は自衛の戦争をした」では、大東亜戦争が侵略目的ではなく、「自衛」のためであることが主張されます。お決まりのように、マッカーサーの次の発言が引用されます。

したがって彼らが戦争に飛び込んでいった動機は、大部分が安全保障(筆者註:security)の必要に迫られてのことだったのです。

この「安全保障」(security)の語を 「自衛」(self-defense) の意味でとって、大東亜戦争は自衛戦争であって侵略戦争ではなかったという解釈を提示したのは、保守の重鎮・渡部昇一氏であることはよく知られます。もちろん本論文では、その解釈を是として、

東京裁判は、日本が侵略戦争を行ったと決めつけ、それを裁くことが目的の裁判であった。そして、それを推進したのはマッカーサーである。
ところが、その張本人が、日本の戦争は侵略戦争などではなく、日本は安全保障の必要性に迫られて戦争に突入したと公の場で証言したのだ。

と述べられます。

リメンバー・パールハーバー

最終第四章「リメンバー・パールハーバー」では、日本の真珠湾奇襲は、卑怯なだまし討ちではなく、大使館員の怠慢で宣戦布告の通知を手渡すのが遅れただけであると弁護されています。

さらにルーズベルト大統領は、真珠湾奇襲を事前に知っていたが、戦争に参加したいがためにこれをあえてハワイに知らせなかったとという理解が提示されています。

アメリカ側は真珠湾攻撃を事前に知っていた。しかし、日本の真珠湾攻撃作戦は事前にハワイ現地には知らされなかった。
ルーズベルト大統領は、「リメンバー・パールハーバー」のスローガンを響き渡らせ、アメリカ国民を参戦賛成に向かわせるために、ハワイを犠牲にしたのである。

このルーズベルト陰謀説は保守論客が好んで引用しますが、秦郁彦『陰謀史観』(新潮社, 2012, pp. 173-199)が主張するように正統的な歴史学者からは全く相手にされていない仮説です。

まとめ

論文の最後は次のようにまとめられています。

日本は、戦争に情報で敗れ、戦後も情報でマインドコントロールされている。
今、われわれの歴史を取り戻すことが急務である。

以上を総括すれば、「日本は自衛のためにやむおえず大東亜戦争を起こした。真珠湾攻撃は決して卑怯なだまし討ちではなく、ルーズベルトはこれを事前に知っておきながら、参戦するためにハワイを見殺しにした。そして大東亜戦争に日本は確かに敗れたが、アジアの諸民族を白人による植民地支配から解放するという、人類最高のよいことを達成した点では勝利した。にもかかわらず、戦後日本はGHQによる洗脳工作の影響によりマインドコントロールされ、日本人自身が日本人を全否定するようになり、大東亜戦争で日本が人類最高によいことをしたことに気が付かないままにある。この状況を打破して、われわれの歴史を取り戻すことが急務である」ということになるでしょう。

様々な陰謀史観的要素が、わずか四ページの論文の中に凝縮されているという点で、注目に値します。これにあとコミンテルン要素が加われば、田母神論文と歴史観がほぼ一致する点でも興味深いものがあります。田母神論文が問題になったのは2008年ですから、本論文はまさに時代を先取りしていると言えるでしょう。

もちろん、内容が正しいかどうかは別問題ですが、保守ウォッチャーならどこかで聞いたことのある話を集めたものです。一番の驚きは、小学生にこれを教えるということですが…。

なお、同氏による小学生向け歴史クイズ本『日本がますます好きになる歴史クイズ』も同じようにスゴかったりします。仔細については下記のリンクをご参照ください。

【トンデモ】白人による世界制覇を防いだ日本人(安住順一『日本がますます好きになる歴史クイズ』明治図書出版, 2000)

2018.10.16

そしてTOSS教育というのも、かなりキていますので、是非ご参照を。

【トンデモ】保守による「命」の授業(長野藤夫「命は他人事ではない:自尊心が当事者性を生み出す」『中学生に「命」の輝きを教える』明治図書, 2004)

2018.10.19

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