はじめに
昨日、貴重なコメントをいただき、『日本国紀』の「押し付け配本」「押し本」状態がなぜ生じているのか、ほぼ解明できたと思います。本記事では、それをまとめるかたちで現時点での成果を報告したいと思います。
結論的に言えば、幻冬舎は大型書店と「特約書店」の契約を結んでおり、取次の判断任せの配本ではなく、幻冬舎と書店が事前相談の上で冊数を指定して配本しています。
さらに「パターン配本」と呼ばれる「書店側の考えは入らない自動送本システム」に基づいて、初版のみならず重版されたものも書店に配本されます。
現在、在庫過剰で発注していないにもかかわらず、刷を重ねる度に『日本国紀』が勝手に書店に送られてくる不可解な現象が報告され、様々な仮説が立てられています(関連記事)。しかし上記の「特約書店」「パターン配本」の二つが真であれば、その謎は氷解します。
つまり、幻冬舎が「特約書店」に対して、「パターン配本」に基づいて『日本国紀』を増刷の度に押し込んでいるというカラクリです。
「特約書店」への指定配本
まず幻冬舎の売上の75%が、取次任せの配本ではなく、「特約書店」への指定配本のものだそうです。この指定配本とは、(取次を経由するものの)出版社が書店に冊数を指定して卸すやりかたです。
もちろんこの指定配本の冊数を決めるのは、最終的には幻冬舎側ですが、その過程で書店側と営業打ち合わせをするそうです。
幻冬舎の販売管理システムには次のようにあります。
■法人中心の特約書店に集中
同社は書店営業担当者6人で全国をカバーしているが、文庫の販売実績に基づく販売上位の150法人と単独店500店の合計4500店舗を特約書店として、「新刊」「重版」の指定配本を実施している。この特約書店は同社売上の75%を占める。……■年度始めに販売目標を共有
出版ERPシステム(販売管理システム)(株)幻冬舎
特約法人とは年度初めに「販売目標確認書」を交わし、営業部員にとっても担当書店が目標を達成することが自身の目標になる。そのため「自分が担当する法人の数字は絶えず確認しなければなりません」と花立取締役は同社が築いてきた販売手法にシステムが欠かせないことを説明する。
また別のサイトにも同趣旨の説明があります。
同社営業局には、150法人で約4500書店におよぶ特約店制度がある。その組織は「Sランクの20店」を頂点に、「Aランクの30店」「Bランクの450店」、そして「Cランクの4000店」からなる。その売上シェアは78%という。
Sランクには営業担当が出向いて行う新刊会議から、Aランクにはファックスから事前注文をとり指定配本。以下の特約店には同社のランクに従って配本する。特約店以外の書店は取次会社に委ねているというのがおおよその仕組みだ。
幻冬舎における「ミリオンセラーの方程式」
ここで思い出すのは、『日本国紀』は販売前からAmazonランキング1位だったり、新聞に大きく広告を打っていたことです。これを強みに幻冬舎の営業は、「特約書店」から一冊でも多く注文が取れるように企業努力し、潤沢な分量を指定配本したことは間違いないでしょう。
重版はパターン配本
また幻冬舎の「特約書店」への配本システム(特約店制度)を説明した会話のうち、次の赤字箇所が重要です。
寺川 当然、初版重版も含めて指定配本されているのですよね。
花立 そうです。重版においてもデータに基づいたパターン配本を行ってます。たとえば1万部の重版をした際には4%チェーンには400冊がグロスで配本されるしくみになってます。
総合出版社の出版ERPの有効活用とは
とりわけ花立融氏(現:幻冬舎取締役)が言っている「重版においてもデータに基づいたパターン配本を行ってます」という語が重要です。
このパターン配本とは、書店から注文があって配本されるのではなく、書店側の考えは入らずに自動的に送本するシステムのことです。次のように定義されます。
パターン配本とは
日本著者販促センター
パターン配本とは、取次がつくった自動送本システムのことです。具体的には、取次会社が、出版物のジャンルや部数を各書店の規模、地域等を照らし合わせて、ある方式で配本することです。
日販では「パターン配本」、トーハンでは「データ配本」と呼んでいます。他には、「ランク配本」ということもあります。また、この仕組みには、書店側の考えは入っていません。
本来、「パターン配本」は取次が決めるもののようですが、どうやら先ほどの「当然、初版重版も含めて指定配本されているのですよね」「そうです」という答弁から明らかなように、この「パターン配本」のパターンは、幻冬舎が決定できるようです。
つまり幻冬舎は、「特約書店」に対して、たとえ発注されていなくても、重版のたびに配本する場合が有り得るということです。
これを踏まえると、増刷するたびに『日本国紀』が発注していない書店に届く理由は、このような幻冬舎の「パターン配本」にあると考えられるでしょう。
まとめ
以上をまとめれば、次のようになります。
- 幻冬舎の売上の75%は、取次の判断を通さず、「特約書店」と事前打ち合わせをした上で指定配本したものが占めている。
- 幻冬舎は『日本国紀』を刊行するにあたり、発売日前から新聞広告を出すなど積極的なプロモーションを仕掛け、「特約書店」に大量の『日本国紀』を指定配本した。その結果が、大型書店に山積みされた『日本国紀』である。
- また、この「特約書店」には、初版のみならず重版も「パターン配本」に基づいて自動的に配本する。発注していない『日本国紀』が、刷を重ねる度に書店に送られてくる理由は、恐らくこの「パターン配本」にある。
以上はネットで手に入る資料に基づいて合理的に導かれた結論で非常に説得力が有ります。この詳細な情報をお寄せいただいた、ゆべしさんに心より御礼申し上げます。
ベストセラーは創られる
最後に、ゆべしさんが指摘した、不思議な見城氏のツイートを考察して終わりにしたいと思います。「押しつけ配本談合」の疑惑が浮上した時(関連記事)、幻冬舎社長・見城徹氏はこれに憤慨して次のようにツイートしました。
書店は届いた本が売れないと判断したら、その本を店頭に出さず、そのまま取次に返品すればよいのです。取次は発売した出版社に返品し、出版社の経営は悪化します。Amazonや楽天ブックスを始めとするネット書店では既に合計14万部強が売れていると把握しています。
— 見城 徹 (@kenjo_toru1229) January 12, 2019
百田直樹[日本国紀]。昨日(1月17日)でパブライン(全国の紀伊國屋書店の数字)搬入日以来連続70日間100冊以上を達成。売れているのです。取次と組んで書店への押し付け談合などしておりません(笑)。そもそも、書店への押し付けなど出版界で出来るはずもありません。どうやってやるんでしょうか?
— 見城 徹 (@kenjo_toru1229) January 18, 2019
しかし幻冬舎は「特約店制度」で指定配本しているのですから、押し付けること自体は可能でしょう。なぜそれに言及しないのか。おそらくこれは自社の出すベストセラー本が、人為的に創られたものに見えてしまうからでしょう。なにせ、幻冬舎は書店側と販売目標まで立てているのですから。
どうやら真実は、「圧倒的努力」によって創られたベストセラー『日本国紀』といったところでしょうか。
頂いたコメント
ゆべしさんから頂いた貴重なコメントです。重要だと思いましたので、全文ここに挙げておきます。重ねて御礼申しあげます。(ただし「指定配本」の意味は、幻冬舎が書店に対して分量を指定して配本することであると思われます)
はじめまして
どの記事にコメントしようか迷いましたが、「押しつけ配本談合疑惑」に触れている最新記事ということでこちらにコメントします。
幻冬舎が取次と談合することはおそらくないと思います。
なぜなら、幻冬舎は、取次を介さずに直接書店に配本する「特約店制度」というものを独自に作っているからです。
特約書店からの売り上げは、幻冬舎の売り上げの70~80%になるそうです。
つまり別に取次と談合しなくても、幻冬舎独自の判断で書店に本を押しつけることが可能なんです。
ここで不思議なのは、見城社長は有田氏の発言に反応して、「店は届いた本が売れないと判断したら、その本を店頭に出さず、そのまま取次に返品すればよいのです。取次は発売した出版社に返品し、出版社の経営は悪化します。」とツイートしたことです。
実際には幻冬舎は多くの出版物を取次を通さずに配本しているのに。この特約店制度についてあまり語りたくないのでしょうか?
特約店は150法人・4500店舗というから、大手チェーン書店の多くが幻冬舎の特約店になっているのでしょう。
「Sランクの20店」「Aランクの30店」「Bランクの450店」「Cランクの4000店」とランクがつけられており、年度始めには「販売目標確認書」を幻冬舎の営業局と交わすというので、書店側に売り上げノルマがあると考えていいでしょう。
取次を介さない特約店への配本を幻冬舎は「指定配本」と名付けているそうです。
「増刷のたびに、まだ売れ残っている書店に配本を繰り返す版元など聞いたことが無い。」と五十嵐茂氏はおっしゃっていましたが、幻冬舎の花立氏によると「重版においてもデータに基づいたパターン配本を行ってます。」とのことなので、幻冬舎の指定配本では「あり」なんでしょうね。
以下は某巨大掲示板の百田スレからのコピペになりますがソースです。
幻冬舎の販売戦略の解説であり、kowa-com.co.jpの二つの記事では幻冬舎の花立融氏(現在は取締役)が発言しています。(kowa-com.co.jpは、幻冬舎の販売管理システムを担当している光和コンピューターのwebサイトです。)
第21回 光和出版セミナー 出版システム活用の実際
開催日 平成21年11月18日(水)
http://www.kowa-com.co.jp/jirei-new-a/21kai-seminer-gentosha.html幻冬舎における「ミリオンセラーの方程式」※出版業界紙 「新文化」 2013年3月7日号より
http://www.1book.co.jp/004997.html出版ERPシステム(販売管理システム) ㈱幻冬舎 ( 文化通信bBB 2017/4/3掲載)
http://www.kowa-com.co.jp/jirei-new-a/pdf/20170403-gentosha.pdf











二本著者販促センター ×
日本著者販促センター ○
いつも多謝
これぞ現代版「パターン死の行軍」です。
「こっちは人道的に処遇したのに、あっちがひ弱で落伍しただけだ」といった責任転嫁が、再現されているかも…
うまい!(笑)
おはようございます。
お褒めに与り恐縮です。
実は、某人気漫画を扱ったデータベース系同人誌の辞書コーナーで、マンネリに言及する内容の『パターン(死の行軍)』という項目がありました。
謹んで剽窃させて頂いた次第です(自白)。
左翼作家もベストセラーを作り上げてみてはどうだろう
資本論が売れていないと言うレベルでは難しいんじゃないかな。
「日本国紀」に関する記事いつも面白く読ませてもらっていますが、この記事については残念ながらちょっと不正確だと思います。 情報提供された方および記事執筆の方はおそらく「幻冬舎は特約書店とは取次を介さず直接取引をしている」と認識されていて、この記事はその認識の下に書かれているのではないかと思います。記事を読む限りでは、「幻冬舎は特約書店とは(まったく)取次を介さず(すべて)直接取引している」というように読めます。
しかし、「幻冬舎は特約書店と取次を介さず直接取引をしている」つまり「直取引をしている」ということはまずないだろうと思います。
(元の参考にされているweb記事内に、そのような認識をもたれてもしようのない、誤解を生みやすい表現があるからやむをえないかもしれません。)
幻冬舎が特約書店との間で取次を介していないのは、「配本パターンと配本部数」という部分においてのみであって、書籍など出版物現物の流通(「配本(送本/送品)」や「返品」)に関しては取次を介して行っているはずです。(また、「配本パターンと配本部数」に関しても、取次を通して出版物を卸しているなら、厳密にいうと「取次を介している」と言えなくもありませんし、そもそも「指定配本」というのが取次の協力があってできることです。)
特約店制度・指定配本といったようなものは、特に幻冬舎に限った話ではありません(幻冬舎のシステムはかなりしっかりしてるとは言えるでしょう)。名前や方法はいろいろあるでしょうが、多かれ少なかれどの出版社もやっていることです。(「指定配本」というのも、とくに幻冬舎が名付けた独特のものでなく、出版社と取次と書店との流通のなかで普通に使われることばです。)
したがって、幻冬舎・見城氏の「書店は届いた本が売れないと判断したら、その本を店頭に出さず、そのまま取次に返品すればよいのです。取次は発売した出版社に返品し、出版社の経営は悪化します。」というのは、とくに「取次を強調し特約店制度について隠す」といったような意図がある発言とは考えられません。自社を含め取次と普通に取引している出版社、書店の一般論を言っているに過ぎません。
それと、幻冬舎商法をいわば「押しつけ配本」というように表現していますが、出版流通上、「委託制度」というのは言ってみればすべて「押しつけ配本」です。基本的に各書店が注文せずに本が勝手に入ってくるのですから。なので、それをもって「日本国紀」批判するのもどうかな、という感じです。(一方、現場書店員の中に「押しつけられてる」という感覚をもたれる方がいるというのも、それはそれでよく理解できます。)
以上より、この記事に関しては残念ながらちょっとピントのずれた批判になってしまっているなと思います。また、この記事内のまとめにある[幻冬舎の売上の75%は、取次を通さず、「特約書店」に直接配本されたものが占めている。]など、この記事には、不適切・不正確な表現があると思いますので、訂正が必要ではないでしょうか。
もちろん、幻冬舎・見城氏のその他のツイッターでの発言や、百田氏、そして「日本国紀」というものには呆れるばかりですが。
なお、万一、幻冬舎が特約書店といわれる書店と取次を介さず直取引しているなら、私のこの指摘自体が的を外していますので、その場合、申し訳ありません。また、私のこの説明も言葉足らずで、かえってわからなくなったという方もおられるかもしれません。よりわかりやすい説明をするには、出版流通における「委託」「注文」「新刊委託」「重版委託」や、そういったことに関する出版社と取次と書店間の交渉の現場などについても詳述したほうがよいでしょうが、それはさらに文字数を要しますので、とりあえずここまでといたします。
長くなり失礼しました。
深謝。私もその旨に気が付き、修正しました。
更にご指摘いただければ幸甚です。