【トンデモ】世界最古の日本文明スゴイ!ちなみに日本文明論の誤謬を糺す(H・S・ストークス『日本だけが「悪の中華思想」を撥ね退けた』悟空出版, 2018)

はじめに

愛国系出版社「悟空出版」は、日本スゴイ中韓ダメ本を大量生産しています。どれも大同小異でコンテンツの重複が甚だしいのですが、今回はヘンリー・S・ストークス(翻訳・構成:藤田裕行)『日本だけが「悪の中華思想」を撥ね退けた』(悟空出版, 2018)に出てくる世界最古の日本文明スゴイ論を紹介したいと思います。

ヘンリー・S・ストークス氏と言えば、神武天皇の実在を信じるのに、アーサー王の実在を信じない不思議なイギリス人なのですが、本書においても不自然なまでに日本ヨイショをしてくれています。

【トンデモ】『大東亜戦争は日本が勝った』H・S・ストークス|ハート出版, 2017

2018.10.30

【トンデモ】『日本が果たした人類史に輝く大革命:「白人の惑星」から「人種平等の惑星」へ』H・S・ストークス×植田剛彦(自由社, 2017)

2018.10.18

とりあえずタイトル詐欺

一先ず目次をあげておきます。

はじめに 日本だけが「中華思想」に飲み込まれなかった
序章 比類なき日本文明に誇りを
第一章 太古より文明を保持し続けた日本
第二章 仮想現実でしかない「中国」
第三章 「朝鮮半島」が日本にもたらす脅威
第四章 アジアに迫る白人列強の脅威
第五章 マッカーサーが気づいた「北の脅威」
第六章 日本文明の精華
終章 米中覇権戦争の最中、日本の使命は何か
おわりに 安倍首相に期待したい「憲法改正」の実現

一目見てわかるように『日本だけが「悪の中華思想」を撥ね退けた』に一致するコンテンツは、はじめに第二章しかありません。第四章に至っては、日本だけが白人列強を撥ね退けた、という内容です。むしろ本書のコンテンツ比率からすれば、序章第二章第六章などから明らかなように「日本文明」という概念を持ち出して日本スゴイをしてくれる内容の本です。

しかも最後章には「安倍首相に期待したい「憲法改正」の実現」というよく解らないチャプターまで入っています。イギリス人のストークス氏が、日本国憲法の改正を安倍首相に期待するとか、本当に意味不明でしかありません。

このように本書は、明らかにタイトルと内容が不一致です。劣化保守本はチャプターも内容も結論も支離滅裂な場合が多いのですが、本書はまさにその典型でしょう。ケント・ギルバート氏の『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』が大ヒットしたので、それにあやかってこのタイトルを付けたのでしょうか…。

世界最古の日本文明スゴイ!

中身を検討していきます。まず本書の序盤でストークス氏は、「日本文明」なる歴史教科書には絶対に載っていない、かつ近年の保守が好む概念を持ち出して、日本をヨイショしてくれます。

この「日本文明」とは、政治学者サミュエル・P・ハンティントン『文明の衝突』(原著1996)のなかで説かれた概念として知られます。まるで日本が四大文明に比する独自の文明を持っているかのような語のため、一部の保守論客が好んでこれを引用します。ストーク氏も、次のように述べます。

ハンチントン教授は日本文明を世界の「八大文明のひとつ」として位置づけた。日本文明が「日本一国のみで成立する、孤立した文明」であると、定義したのである。
日本が世界の他のどの文明とも、まったく異なった独自の文明を築いてきたというのは、まさに卓見だった。それまで世界の学界では、日本を中華文化圏、あるいは儒教文化圏の一部として位置づけてきた。それが長いあいだ世界の常識となっていて、誰も疑うことがなかった。そんな中、初めて日本を独立した八大文明のひとつとして認めたハンチントン教授の洞察力に、敬意を表したい。

 H・S・ストークス『日本だけが「悪の中華思想」を撥ね退けた』悟空出版, 2018, p. 30

このあとストークス氏は、一万五千年前の縄文時代の遺跡や、三万年前の磨製石器などを取りあげながら、日本文明が四大文明に比して世界最古であると主張し始めます。さらに、三内丸山遺跡の年代が5500万年前から4500万年前ごろと知って、次のように感嘆の声をあげます。

このことは、日本文明の起源が世界史的に見て、とんでもないものであることを、意味している。
ユダヤ教にとって唯一の聖書であり、キリスト教にとっての旧約聖書に描かれた歴史は、およそ六千年と言われる。……ユダヤ教によれば、この宇宙が誕生してから五千六百七十年しか経っていないのだ。
ところが三内丸山遺跡は、聖書時代の始まりのころに、五階建てマンションと同じ高さの建物を建築していた。まさに「文明」である。古代日本文明が立てた「バベルの塔」ならぬ、「アオモリの塔」なのだ。遺跡という物的証拠が証明している。

 H・S・ストークス『日本だけが「悪の中華思想」を撥ね退けた』悟空出版, 2018, p. 30

一読して唖然です。つまり旧約聖書の創世記に基づく年代論からすれば、天地創造まもなくこの三内丸山遺跡が建てられていたので、古代日本文明スゴイというのです…。聖書に描かれた物語を現実世界の(しかも日本の)歴史に当てはめることに、何の意味があるのでしょうか。じゃあ三内丸山遺跡はノアの洪水で滅びたのかとツッコミを入れたくなるところです。

「日本文明」の誤解を糺す

このように聖書の「神話」と考古学的な「歴史」の区別ができていないストークス氏の見解には驚嘆を禁じ得ないばかりか、その氏が語る「日本文明」がいかにテキトーなものなのかを端的に示しています。最後にこの「日本文明」について、近年、保守論壇を中心に誤解が多く見られるのでこれを糺しておきます。

近年保守論客が盛んに持ち出す「日本文明」論は、①古代日本が中国に朝貢していたという事実や、②日本文化が中国から多大な影響を受けている事実を認めたくないコンプレックスから成り立っています。したがって、「日本文明」なる文明は、中華文明とは別に成立し、かつ起源も古い点が強調されます。

ところでこの「日本文明」が「中華文明」とは別に存在する点を主張するにあたり、サミュエル・P・ハンティントン『文明の衝突』(原著1996)がしばしば保守本に引用されることは先ほども述べました。しかし原著を読めばすぐに解りますが、保守論壇が主張するような「日本文明」は、ここには一切説かれていません。論より証拠、「日本文明」の起源は次のように説明されます。

Japanese. Some scholars combine Japanese and Chinese culture under the heading of a single Far Eastern civilization. Most, however, do not and instead recognize Japan as a distinct civilization which was the offspring of Chinese civilization, emerging during the period between A.D. 100 and 400.(Samuel Phillips Huntington, The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order, Simon & Schuster, 1996, p. 45)
日本文明。一部の学者は日本の文化と中国の文化を極東文明という見出しでひとくくりにしている。だが、ほとんどの学者はそうせずに、日本を固有の文明として認識し、中国文明から派生して西暦一〇〇年ないし四〇〇年の時期にあらわれらたと見ている。(ハンチントン, 訳:鈴木主税『文明の衝突(上)』集英社, 2017, p. 67)

ハンティントン氏は日本文明は中国文明から派生して後100年~後400年ごろに現れたと理解しています。この事実は、文明史を説明するためにハンティントン氏が引用している「文明系譜図」からも確認できます。


Samuel Phillips Huntington, The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order, Simon & Schuster, 1996, p.49

このように、ハンティントン氏は日本文明を中華文明の亜種と考えていたことは間違いないでしょう。したがって、ハンティントン氏の日本文明論をヨイショしておきながら、日本には中国文明より古い文明があったと主張することは、荒唐無稽であると言わざるを得ません。

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