【トンデモ】WGIPの裏にはコミンテルンが!(高橋史朗「GHQに葬られた日本の「武道」」『正論』2018.1)

コミンテルンブーム

保守論壇は空前のコミンテルン陰謀論のブームです。アパグループ主催の「アパ日本再興大賞」では、江崎道郎『日本は誰と戦ったのか:コミンテルンの秘密工作を追及するアメリカ』(ベストセラーズ, 2017)が大賞に輝きました。

その内容はタイトルからもお察しの通り、コミンテルンのスパイたちによってアジア太平洋戦争(大東亜戦争)が引き起こされたという陰謀論なわけです。田母神閣下の論文が火をつけたのか、この頃ともかくコミンテルン陰謀論がブームになっています。

張作霖爆殺事件も、盧溝橋事件も、大東亜戦争もすべてコミンテルンの謀略によって引き起こされたと主張されています。これが事実ならば、コミンテルンは近現代史を裏で操っていた勝者ということになるでしょう。しかし現実には、ソ連はドイツのバルバロッサ作戦に対応できず、アメリカから武器貸与まで受け、さらに数千万人の死者を出して満身創痍でようやく勝てたわけですが、こういう所は何故かいつも見落とされます。

WGIPはコミンテルンの謀略に通ずる!

そんなコミンテルン絶頂期を象徴するかのようなトンデモ陰謀論が発表されましたので、それを紹介したいです。その陰謀論とは、「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(WGIP)の原点が、コミンテルンと密着した中でつくられた」というものです。

これを主張したのは、WGIPの第一人者として知られる高橋史朗氏です。「GHQに葬られた日本の「武道」」(『正論』2018.1)という論文には次のようにあります。

コミンテルン史観―あるいはマルクス主義史観とよんでもいいのですが―こうした人たちがGHQと癒着し、占領政策を展開していたことが資料の公開が進んで徐々にわかってきたわけです。すなわちWGIPそのものを原典にさかのぼって検証していくと、コミンテルンと癒着した中で政策がつくられ、対日心理戦略がつくられてきたことが明らかになってきたわけです。

しかし、コミンテルンは1943年に解散してるのに、どうやって終戦後の(しかもGHQによる)対日情報統制WGIPを画策できたのかとか、何が悲しくてレッドパージ(非共産化)までしたGHQがコミンテルンと手を組まなきゃいけないんだとか、素朴な疑問がいろいろ浮かびます。普通だったら「考えすぎ」「妄想」となるわけです。

ブラッドフォード・スミスの役割

しかしそこは高橋氏一流の理論によって、WGIPとコミンテルンが結び付けられます。

〔ブラッドフォード・〕スミスはのちにWGIPを陣頭指揮する人物で、彼が書いたこの二つの論文は『アメレイシア』という機関紙に掲載されています。しかし、この機関誌を発行する団体は実はコミンテルンの外郭団体なのです。もうこの時点でコミンテルンとWGIPに接点が生まれているわけです。

すなわち「WGIPの陣頭指揮者がコミンテルン関係の雑誌に論文を掲載していた」から、「WGIPとコミンテルンには関係がある」という理論です。しかしこれは考え過ぎでしょう。仮に、ブラッドフォード・スミスがコテコテの共産主義者であったならば、そもそも共産主義嫌いのマッカーサーが対日情報統制という重要な役割を彼に与えるとは思えません。したがって、共産主義と関係があった雑誌に論文を投稿したからと言って、投稿者が共産主義者として認定されるわけではないことは明らかです。

また高橋氏は、ブラッドフォード・スミスを「WGIPを陣頭指揮する人物」と述べていますが、これには語弊があるのでより正確な記述が必要です。このブラッドフォード・スミスは、確かにWGIPの中心人物の一人であり、GHQ版戦史「太平洋戦争史」の編纂に当たった人物です。しかし、決してWGIPそのものを独裁的に統括する立場ではなく、あくまでも彼はCIE局長のダイク・ケネスの部下でとして働いた人物です。

そして「太平洋戦争史」の編纂も、彼が一人で行ったわけではなく、客観性を確保するためにGHQの他部の意見も取り入れられています。またその冒頭部では、天皇に戦争責任がないことが示唆されていて、GHQの方針と日本の国体護持に協力的です。(賀茂道子 『ウォー・ギルト・プログラム:GHQ情報教育政策の実像』法政大学出版, 2018)

このようにブラッドフォード・スミスの経歴からWGIPをコミンテルンと結びつけることは、荒唐無稽な陰謀論に過ぎないでしょう。

まとめ

アメリカは言論の自由が許された国で、様々な思想を持つことが公に認められていました。日米開戦前は、政府・民聞を通じ親英、親中、親ソ派とラベルを押された多彩な人脈が入り乱れていたそうです(秦郁彦『陰謀史観』新潮社, 2012)。そのような状況を考えれば、生活をしていくうえで、知らす知らずのうちに親英、親中、親ソ派とラベルを押された人々と何らかの関係を持つことは不思議ではないです。しかし「何らかの関係」を持っただけで、当人までが親英、親中、親ソ派になるわけではありません。これを十分に踏まえる必要があります。

たとえば、ある人が良く通っているレストランの社長が共産主義者だったならば、その人は「共産主義の関係者」とも表現できてしまいますが(間接的に献金もしていますし)、その人が共産主義者であるかどうかは別問題です。二十年、三十年と生きた人の経歴を詳しく調べれば、その人物が共産主義と関係していることを証明するより、関係していないことを証明することの方が遥に困難です。

この様な常識を踏まえるならば、「ブラッドフォードスミスはコミンテルンと関係していた」とか「WGIPはコミンテルンと癒着した中でつくられた」といった言説が、単なる陰謀論でしかないことがよく解ります。

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