【悲報】大誤報に大歓喜して、勝利を確信してしまう少年誌(『少国民』3-43, 1944.10)

戦争後期の大勝利報道

1942年を境に、アジア太平洋戦争(大東亜戦争)の攻守は逆転し、1943年以降は苦しい戦況が報道されるようになり、「転進」「玉砕」といった記事が見られるようになってきました。

とくに、1994年6月にサイパン島が陥落し、日本がB29の爆撃圏内になったことを機に、日本国内の戦意がガクンと落ちたことが指摘されています。(荻野富士夫 『「戦意」の推移:国民の戦争支持・協力』校倉書房, 2014, pp. 18-19, p. 186)

その様な苦境のなか、台湾沖航空戦(1944.10.12-16)で、敵機動艦隊を強襲し、

  • 轟撃沈 空母11隻 戦艦2隻 巡洋艦3隻 巡洋艦もしくは駆逐艦1隻
  • 撃破 空母8隻 戦艦2隻 巡洋艦4隻 巡洋艦もしくは駆逐艦1隻 艦種不詳13隻
  • 撃墜 航空機112機
  • 被害 航空機312機

という大戦果を挙げたと大本営発表しました。これが事実ならば、アメリカ軍の主力は壊滅したことになり、まさに戦局を一転させる大勝利です。この大本営発表を聞いたアメリカ市場が大暴落してしまったほどです。

この大本営発表は「本当は一隻も撃沈できていなかった」という恐ろしい大誤報だったというオチがつくわけですが、この発表を鵜呑みにした雑誌や新聞は、待ちに待った勝利の時と言わんばかりに大報道。昭和天皇が御嘉尚の勅語を賜ってしまったり、国民が狂喜乱舞して「台湾沖の凱歌」という歌を作ってしまったりしました。

実際には早いかなり段階で、海軍は誤報の可能性がかなり高いことに気が付いていたのですが、ここまで喜ばれてしまっては後から訂正もできず、そのまま放置してしまったという「大本営発表」を象徴するようなエピソードをもっています。

本記事では、そんな誤報に踊らされて、狂喜乱舞してしまった少年誌の記事を紹介したいと思います。

万歳、ばんざい 敵艦隊を壊滅

児童雑誌『少国民』は小学生向けの雑誌として当時非常に広く読まれていたものです。戦時下にあっては戦争記事が多くなり、戦争末期に至っては特攻隊を賛美したり、米英撃滅の戦意を高揚させる記事が殆どを占めるようになります。

そんなわけで台湾沖航空戦の大本営発表を受けて、『少国民』も大喜び、後に文化勲章を授与された武者小路実篤は「万歳、ばんざい 敵艦隊を壊滅」という批判的精神0の文を寄稿してしまいます。

 

そのなかでは、

台湾の東方の海戦は大東亜戦争史に特筆大書される歴史的事実になりました。しかも日本では誰も誇るものはありません。みんな感謝ばかりして、自分がえらかつたのだと思ふ人は一人もありません。美しい話と思ひます。今にいろいろの美談が伝へられると思ひます。

などと、いくら大本営発表に騙されたとはいえ、手放しに日本を自画自賛しまくっています。

 


そして、日頃の鬱憤がたまっていたのか、だんだんと話題が台湾沖航空戦とは全く無関係のない「ありがたい日本国体」とか「あさましいアメリカ人」とかに移っていきます。その内容を幾つか紹介します。

今さらに日本の陸海軍はえらいと思ひます。そして日本人はえらい国民であり、それ以上日本の国体はありがたいと思ひます。
忠義のためには生命を喜んでささげる、こんな国は世界のどこにもありません。だから強いのです。

もちろん日本でもえらい人ばかりは(ママ)ゐないことを皆さんはへいぜい見てゐるでせう。しかしさういう人がいざといふ時、えらい人になれる日本の国体はえらいものです。

ちょうと神風特攻隊が出撃した時期に前後する時期であり、執筆段階で武者小路氏がどの程度戦況を知っていたのかは解りませんが、「忠義のためには生命を喜んでささげる」「さういう人がいざといふ時、えらい人になれる日本の国体」という言葉は今こそ重みを感じます。

そしてアメリカ憎しまで暴走してしまいます。

〔アメリカは〕金をまうけることだけが彼らの生活を支配してゐます。戦争最中でも戦争が早くすんで損すると大変だと今から心配してゐるやうな国です。日本が強いことがわかり、戦争すれば損するばかりだといふことがわかれば、手をあげて降参します。命ばかりはお助けくださいといふにちがひありません。

どんだけ状況認識が甘く、根拠のない希望的憶測を自信満々に書いているのか、と呆れずにはいられません。しかしこれが当時の一級の知識人の見解なのであり、権力に対し批判的態度を取らなかった末路と評価できるでしょう。

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