「ケント・ギルバート現象」に思う論壇の行方

ケント・ギルバート現象

『ニューズウィーク日本版』(2018.10.30)に「出版業界を席巻するケント・ギルバート現象の謎」という興味深い記事が掲載されました。その概要はネットでも読むことが出来ます(リンク)。その全容を知るためにはぜひ雑誌をお手に取ってということになりますが、特に筆者が興味深く感じた点をまとめれば次のようになります。

  1. 2013年~2014年を境に外国人タレントから保守論客へ転向。
  2. 「ケント・ギルバート」本のプロデューサーは植田剛彦氏と加瀬英明氏。
  3. 「ケント・ギルバート」本のファクトリーは、アメリカ発ネットワークビジネスのレクソールの日本人スタッフ。
  4. 著書の中で「日本解放第二期工作要綱」という偽書を引用した間違いについて、ケント・ギルバート氏は「僕の書いたことをうのみにしなくてもいい」「これ(工作要綱)はスタッフが調べてきた」と弁明。
  5. 講談社の『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』のプロデューサーは、同社の間渕隆氏。間渕氏にイデオロギー的動機はなく、単にマーケティング的理由から。講談社内でも出版したことに批判の声。
  6. ケント・ギルバート氏曰く「僕は中道より少し右側」「「日本を好きになっていいんだ」というメッセージを発しているだけ」とのこと。
  7. 『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』に、特定の民族を対象にした差別的な記述がある問題については「全員がそうだとは言わない」「文化としてこういう傾向があると知っておかないと、正しい付き合い方ができない」と回答。
  8. 『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』の読者は、都心以外の60歳前後の高齢者が中心。

考察

特に興味深い事実は、⑧ケント・ギルバート氏の愛読者が「若者」ではなく「高年齢者」であったという点です。幾つかの調査でも高年齢程愛国傾向になることを報告しており、本記事のライターは「年齢が上がるほど愛国的」「嫌韓ムーブメントは当初反権威主義的な若者が担い手だった」「今は高齢者が中心となって『儒教』もその風に乗った」と結論づけています。

しかし「若者ほど自民党支持者が多い」というような、これと逆の流れを示唆するデータも数多くあるので、高年齢者ほど愛国的と憶断するのは危険でしょう。また、購入層が高年齢だからと言って、若年層がリベラルとも必ずしも言えないでしょう。利用者の中心が若年層であるYoutubeにおいて、保守のYoutuber(KAZUYA氏や竹田恒泰氏)はいても、リベラルのそれは見当たりませんので。

また、保守は商業的に回転しやすいという点が強みだということがよく解ります。いわば、ファクトリーで量産された本が、バンバン売れるのです。心血そそいで一冊のリベラル本を仕上げたとしても、売れないというのは致命的です。これは単に「買い手が保守ばっかりだ」と決めつけてしまうのではなく、市場のニーズにあう保守本が多く、非保守・反保守はそのニーズに答えられていないと評価すべきではないでしょうか。現状、全く売れていない非保守・反保守こそが、市場のニーズをしっかり分析して情報を発信できるようになれば、保守と対等に戦えるかもしれません。

課題

ここで私が言いたいことは、研究書のように真面目な非保守・反保守の書籍を仕上げても、それを読む人がいなければ意味がないということです。ある意味で非保守・反保守の本は、何らかの形で「日本スゴイ」を否定する内容を含みますので、日本人からすれば読むのが苦痛になるのではないでしょうか。ビジネスとして回らない以上、保守側の圧倒的な物量の前には勝てません。この点を大いに反省すべきだと思います。

しかし「ではどうすればよいのか」と言われても、何か妙案があるわけではありません。ですが、早川タダノリさんの『「日本スゴイ」のディストピア:戦時下自画自賛の系譜』(青弓社, 2016)など一連の書籍は、その可能性を大いに感じます。この一連の書籍の優れた所は、当時の広告やプロパガンダなどを通して、どれだけ戦前・戦中の日本が馬鹿らしかったかが直感的に解ること、それと同時に現在の保守勢力が進めている戦前回帰もどれだけ馬鹿らしいかが煩瑣な説明なしに解るところです。

かつて「女性の会」といえば左向きの団体ばかりだったのに、いまでは「女性の会」を名乗る右向きの団体が多くなってきました。保守にこそ、非保守は学ぶべき時かもしれません。

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