【トンデモ】『大東亜戦争は日本が勝った』H・S・ストークス|ハート出版, 2017

自画自賛の変容

自分で自分を褒めてもみっともない。ましてや日本人が日本人を褒めだすというのは恥ずかしい。そこで、外国人に日本を称賛させようという、さらに恥ずかしい本が最近増えています。

たとえば、井上和彦『ありがとう日本軍:アジアのために勇敢に戦ったサムライたち』(PHP研究所, 2015)は、東南アジア諸国を歴遊して、日本を褒めてるくれる人にインタビューして、それを纏めて「日本スゴイ」本にしてしまったという恐るべき書です。

【恥トンデモ】『ありがとう日本軍:アジアのために勇敢に戦ったサムライたち』(井上和彦|PHP研究所, 2015)

2018.10.27

保守が言われる「美しい日本の心」を持っているのならば、とてもではないがそんな恥ずかしい本は出せない筈なのですが、この井上和彦氏はこの様な類書を数多く刊行されています。

また、外国人著者による日本語の「日本スゴイ」本も興隆を極めています。ケント・ギルバート氏はこの典型であり、これまでに三十冊以上の書籍を刊行しています。もちろんこれはケント・ギルバート氏が一人で書いたものではなく、いわばプロデューサーがいて、代筆する人がいて、それを「ケント・ギルバート」というブランドで出すという意味です(『ニューズウィーク日本版』2018.10.30)。したがってケント・ギルバート本は、同氏の思想を語るものではなく、それをプロデュースしているチームのイデオロギーを反映するものです。つまり、日本人が愛国嫌韓嫌中の発言をしても説得力が無いので、権威がありそうな外国人に語らせているだけのことです。

これとよく似た構造は、ヘンリー・S・ストークス氏の著書にも確認されます。同氏は植田剛彦氏との対談本『日本が果たした人類史に輝く大革命:「白人の惑星」から「人種平等の惑星」へ』を刊行しています。この恥ずかしすぎるタイトルが物語っているように、内容は「大東亜戦争は植民地解放の聖戦であり、そのおかげで有色人種が白人の植民地支配から脱却できた」と言うものです。

【トンデモ】『日本が果たした人類史に輝く大革命:「白人の惑星」から「人種平等の惑星」へ』H・S・ストークス×植田剛彦(自由社, 2017)

2018.10.18

続いて今回取り上げたいのは、このヘンリー・S・ストークス氏の単著『大東亜戦争は日本が勝った』(訳・構成:藤田裕行)です。これまた恥ずかしすぎるタイトルですが、このオカシナ本を検討していきたいと思います。

『大東亜戦争は日本が勝った』の目次

目次を見れば、その内容に察しが付くため、少々長いですが目次をあげます。(興味のない方は飛ばされても大丈夫です)

はじめに
第一章 日本が戦ったのは「太平洋戦争」ではない!

 日本は本当に敗戦国だったのか?
 大英帝国を滅ぼしたのは誰か?
 大東亜戦争に勝ったのは日本だった!
第二章 「太平洋戦争」史観で洗脳される日本
 大東亜戦争の果たした世界史的な偉業
 日本が閣議決定した正式な戦争名を、日本のメディアが使えない
 アジアを日本が侵略した?
 『人種戦争』が描く、大東亜戦争の姿
 世界で最初に、人種平等を訴えた日本
 有色人種に同胞意識を持っていた日本
 『人種戦争』による日本の戦争の大義
 中国人は、日本軍を救世主と崇めた
 日本軍を手助けし、イギリス人と戦った中国人
 全く逆転した人種の立場
 日本はアジアの「希望の光」だった
第三章 日本は「和」の国である
 日本人は、対立概念を超克しようとする
 神道は「エコ信仰」──二十一世紀の「世界の信仰」のモデル
 『古事記』に描かれた宇宙創始の世界
 日本では、神々も相談して物事を決める
 日本に民主主義をもたらしたのは、アメリカではない!
第四章 世界に冠たる日本の歴史
 古代からひとつの王朝が続く日本
 産経新聞の『歴史戦』コラムで取り上げられる
 物事は、見る人によって違って見える
 日本を西洋の尺度で測った愚かさ
 日本が世界に誇れる「万世一系」
 天皇によって一つの王朝を続けてきた日本
 先史時代の文明が断絶されているアメリカ
 地政学的に似ている日本とイギリス
 四千五百年前の遺跡「ストーン・ヘンジ」
 五千五百年前に地上六階建てのマンションと同じ高層建築物を建てていた日本
 世界四大文明よりも古い日本の文明
 旧石器時代から侵略されることなくずっと民族が続いて現在に至る国
 日本には、世界を驚愕させる古代からの来歴がある
 神武天皇は、実在した!
第五章 オリエントにあった世界の文明と帝国
 千年、万年のスパンで見なければわからない
 日本文明を独立したものと位置付けたハンチントン
 かつて偉大な文明は全てオリエントにあった
 混迷するイラクは、聖書の地
 古代メソポタミアの民族興亡
 独立し安定していたエジプト文明
 ギリシア文明は、西洋の文明にあらず
 ペルシア戦争とギリシア文化の広がり
 古代ローマとエジプトの接触
 短期間に巨大帝国となったイスラム
 「ユーラシアの覇者」モンゴル帝国
 インド・ムガール帝国の興亡
第六章 侵略され侵略するイギリスの歴史
 侵略されることから始まるイギリスの歴史
 ブリタニアの時代のブリテン島
 イギリス人の神話としての『アーサー王物語』
 ブリテン島におけるキリスト教の歴史
 イングランド王国の誕生とその波乱の歴史
 ブリテン島をめぐる四カ国の歴史
 ノルマン朝とイングランド王ヘンリー一世
 イギリスとフランスの関係を語る「二重王国」と「百年戦争」
 大航海時代の幕開け
 帝国を築く礎となった海賊たち
 清教徒革命の勃発
 イングランド共和国の樹立
 軍を抑制し始めた議会
 王政復古とその条件
 なぜ王政は、危機に陥ったのか
 国王の権力と暴力革命を抑制したイギリス議会
 太陽が沈まない帝国の誕生
 英仏によるインド争奪戦
 世界で始まった大英帝国による覇権戦争
 大英帝国の日本侵略「長崎フェートン号事件」
 支那で勃発した「アヘン戦争」
 インドにおけるイギリス植民地支配への抵抗運動
第七章 アメリカの「マニフェスト・デスティニー」
 「先コロンブス期」の南北アメリカ
 アメリカ大陸を植民地化したノース人
 秀吉の「伴天連追放令」の背景
 聖書の神のモーゼへの命令
 鎖国政策を取った幕府の鋭い外交方針
 ローマ法王によって、加速された大虐殺と奴隷制度
 新大陸で悲惨に酷使された黒人奴隷
 奴隷制度を支持したアメリカ民主党と廃止を訴えた共和党
 共和党初代リンカーン大統領就任と南北戦争
 アメリカの黒人奴隷時代に、日本では世界一の都市と文化が栄えていた
 江戸の治安は、東京よりも良かった
 江戸の庶民は、世界一文化的な生活を送っていた
 江戸の日本は、世界史に類例のないほど教育が普及していた
第八章 白人キリスト教徒による太平洋侵略
 黒船艦隊はシェルガンで武装し、日本をキリスト教化しようと脅迫した
 ヨーロッパのアジア侵略に慄然としたペリー提督
 「マニフェスト・デスティニー」の西部開拓は、太平洋の侵略へ
 大航海時代のスーパースター「クック船長」の大冒険物語
 クックの最期
 尊王攘夷は、日本防衛と国体護持のためだった
 ジャーディン・マセソン商会の暗躍
第九章 マッカーサー親子によるフィリピン侵略
 白人キリスト教徒によるフィリピン侵略
 ホセ・リサールとフィリピン独立運動
 米西戦争で、アメリカがスペインにとって代わる
 独立軍を殲滅にかかったマッカーサー親子
 日露戦争での日本の勝利に歓喜したフィリピン民衆
第十章 大日本帝国と西欧列強の帝国主義の違い
 大日本帝国は、侵略ではなく、防衛のための帝国だった
 白人帝国ロシア南下の脅威
 三国干渉という白人列強の侵略行為
 日英同盟はなぜ締結されたのか
 日本による人種差別撤廃提案はなぜふみにじられたか
 日英同盟廃止を望むアメリカの思惑
 ワシントン軍縮会議の謀略
第十一章 大日本帝国は「植民地支配」などしていない!
 日本はアジア最後の砦だった
 日本の朝鮮統治は「植民地支配」ではない
 日本の統治についてデタラメを書く韓国の国定教科書
 人種平等の理念に基づいた「皇民化」教育
 朝鮮王族に嫁いだ日本の皇族・李方子女王
 八紘一宇は、「世界は一家、人類は皆兄弟」という日本の理想
 大和の国・日本には、八百万の神々がいる
第十二章 日本は中国を侵略していない
 国連で「侵略戦争」が定義されたのは「一九七四年十二月」
 日本の満洲への進出は、侵略ではない
 日露戦争の勝利で満洲の権益を獲得した日本
 中国には匪賊が各地に割拠していた
 満洲の在留邦人の保護
 五族協和・王道楽土の満洲国
 日本の大陸への進出は、「パリ不戦条約」を侵していない!
 支那事変は、日本の侵略戦争ではない!
第十三章 アメリカによる先制攻撃の「共同謀議」
 我々は、もっと真実を知る必要がある
 中国の航空部隊のパイロットは、アメリカの偽装「退役軍人」だった
 戦争を仕掛けたのは、アメリカか、日本か
 日本軍航空部隊との交戦
 中国で航空ビジネスを仕掛ける
 ルーズベルト大統領が、チャイナ・ロビーに応えた
 共同謀議をしていたのは、アメリカだった!
 シェノールトの「日本爆撃計画」
 武器貸与法を議会に提議したルーズベルト大統領
 アメリカによる対日経済封鎖と輸送船への攻撃
 日米戦争を引き起こした元凶の書
第十四章 大統領がアメリカ国民を欺いた日
 大統領による裏切り行為
 日本に対米戦争を起こさせるための八項目
 挑発目的での巡洋艦の出没
 合衆国艦隊司令長官がルーズベルトに反旗
 暗号解読を活用したマッカラム
 「真珠湾の奇襲」は、アメリカの罠だった!
 泳がされていた帝国のスパイ
 太平洋戦争は、アメリカの「侵略戦争」だ
第十五章 大英帝国を滅ぼしたのは日本だった!
 大東亜戦争の虚妄と真実
 大東亜戦争開戦七十周年記念での講演
 大英帝国が刺し違えた日本
 大東亜戦争を高く評価したイギリス人
 大東亜戦争は、アジア解放戦争だった
 “空の神兵”の偉業
 アジアの人々は、日本軍を歓喜して迎えた
 日本よ、大東亜戦争の大義を世界に伝えよ!
 神州不滅を期して

この目次の構成を見ていただければ解るように、タイトルと本の内容にはかなり隔たりがあり、大東亜戦争だけに絞った内容ではなく、保守が主張する歴史修正のエッセンスを散りばめた体裁とっています。

タイトルにもある「大東亜戦争は日本が勝った」とする根拠は、単に「大東亜戦争は植民地解放戦争で、戦後、アジア諸民族は独立できたので当初の目的は達成された。ゆえに日本の勝利」という逆切れ理論であり、これの独自性を検討しようにも、それ以上でもそれ以下でもない誠にありふれた保守言論のコピペです。

ところでヘンリー・ストークス氏はイギリス人だそうですが、イギリス的要素は、「第六章 侵略され侵略するイギリスの歴史」と、「第十五章 大英帝国を滅ぼしたのは日本だった!」くらいしかありません。この様な構成内容からも、本書が「ヘンリー・ストークス」ブランドによって出された保守本であることは明確でしょう。

神武天皇の実在は信じるのに、アーサー王の実在は信じない不可思議さ

こういうSF小説を真剣に読んで粗探しすること自体エレガントではないのですが、既に目次の表題の段階で不思議な箇所もあるので指摘しておきます。それは、第四章に収載される「神武天皇は、実在した!」項と、第六章に収載される「イギリス人の神話としての『アーサー王物語』」項です。

なんとストークス氏は神武天皇の実在を信じてしまい、それが信じられないのはGHQの占領政策の影響であり、これらは「神話」ではなく「現実の来歴」であると断言します。

古事記の中の天皇に関する記載が、神武天皇は多いのに、その後の八代の天皇の事績に関しては極めて少ない。そこで「欠史八代」などと言って、神武天皇の実在を疑問視する進歩的文化人が終戦後から跋扈し始めた。これもGHQの占領政策の影響である。

 ヘンリー・S・ストークス『大東亜戦争は日本が勝った』ハート出版, 2017, p. 77

これは「神話」ではなく現実の来歴であるが、外国人の私には、まるで「神話」のように、御伽噺のように聞こえてしまうのだ。それほど「有り得ない」ことが、この地上で起こっているのが、日本という国なのである。日本人は、このことに大いに誇りを持つべきだ。

 ヘンリー・S・ストークス『大東亜戦争は日本が勝った』ハート出版, 2017, p. 76

……。

いやいやいやいや、その古事記の記述は「神話」ですって! なんで、神話的記述が実際に起こったと信じれて、「日本スゴイ」って結論になるのよ!? と突っ込まずにはいられません。歴史家でもないストークス氏に神武天皇の実在性を語らせて何の意味があるのでしょうか。

一方、ストークス氏は、こんなに記紀神話をヨイショしてくれるのに、自国の誇りアーサー王については「神話」であって実在しないとあっさり片付けます。

ブリトン人のアーサー王については実在したという説もあるが、あくまで伝説である。五世紀頃のことがイギリスでは「神話」になっていると言ってもいい。

 ヘンリー・S・ストークス『大東亜戦争は日本が勝った』ハート出版, 2017, p. 102

皆さんどう思われますか? 紀元前660年ごろにいたとされる神武天皇の実在は信じられるのに、紀元後5世紀ごろにいたとされるアーサー王の実在が信じられないイギリス人って一体。

たとえば、ある日本人がいて、歴史の専門家でもないのに、檀君(西暦前2370年ごろいたとされる古朝鮮の王)の実在を主張して、聖徳太子(紀元後6世紀ごろ)の実在を否定する人物がいたら(しかも韓国で活動していたら)、普通「ちょっと半島に関係されているイデオロギーの持ち主なのかなぁ」と考えて、その人のその発言を「歴史」としては信用しませんよね。

これとほぼ同じ構造の発言をヘンリー・ストークス氏は平然としてしまっているのです。いったいプロデューサー達は何を考えているのか…。

まとめ

本書は「神武天皇の実在は信じるのに、アーサー王の実在は信じない」というイギリス人ジャーナリストに、歴史を語らせてしまったという奇書でしょう。この本が語る歴史を信じる読者がいるということに驚きです。

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