【悲報】靖国神社、いまごろ大本営発表をしてしまう

靖国神社遊就館のパンフレット

靖国神社に併設される遊就館では、特別特攻隊が祖国を守り抜いた美しい物語として展示されています。今回取り上げたいのは、そこで配布されているパンフレット特攻隊戦没者慰霊平和祈念協会(編)『陸軍が行なった海上特攻:米軍を震撼させた挺進爆雷艇㋹』です。

この挺進爆雷艇㋹(○のなかに片仮名のレ、マルレと読まれる)とは、ボートに爆弾を積んで敵艦にぶつかって特攻するというシロモノなのです。航空特攻と違って華が無いせいか、あまり日本では知られていない特攻方法の一つですが、この挺進爆雷艇㋹によって亡くなられた英霊は1636名にも上ります。

したがって、このような特攻で亡くなられた英霊の方々の思いを忍べば、保守の方が仰る通り「誠」を捧げなければなりません。

にも拘らず、遊就館で配布されているパンフレット、『陸軍が行なった海上特攻:米軍を震撼させた挺進爆雷艇㋹』の表紙には次のようにあります。

陸軍海上挺進戦隊は国軍の大きな期待を担って、短期間の訓練の後、不慣れな海上において無防備の特攻艇を操り、敵船舶を撃沈すること数十隻という赫奕たる戦果を挙げた。

 特攻隊戦没者慰霊平和祈念協会(編) 『陸軍が行なった海上特攻:米軍を震撼させた挺進爆雷艇㋹』

一読してオカシイのは、そもそも航空特攻と水上特攻をあわせて計55隻程度の敵艦沈没ですから、海上挺進戦隊の戦果だけで数十隻撃沈というのは明らかにオカシイです。仮に、その戦果について現実とはかけ離れた大本営発表をしているのであれば、これは特攻の誤まった美化そのものではないでしょうか。そこでパンフレットの武勇譚と、実際の戦果を比較してみました。

フィリピンにおける特攻

リンガエン湾における作戦(1945/1/9-10)

まず、海上挺進戦隊の最初の作戦における戦果について、靖国神社のパンフレットには次のようにあります。

日本側は二十乃至三十隻の艦艇を撃沈または大破したと主張した。集計すると上陸船団は沈没六隻、大破二隻、損害八隻で日本側の主張に近い損害を受けている。

 特攻隊戦没者慰霊平和祈念協会(編) 『陸軍が行なった海上特攻:米軍を震撼させた挺進爆雷艇㋹』

!?

ここでの「沈没六隻、大破二隻、損害八隻」という損害数はアメリカ側の発表だと思いますが、日本側の「二十乃至三十隻の艦艇を撃沈または大破」という大本営発表とまったく一致していません。にもかかわらず、このパンフレットでは「日本側の主張に近い損害を受けている」という謎判定をしてしまっています。

なお、海上特攻の戦果を詳しくまとめた木俣滋郎『日本特攻艇戦史 : 震洋・四式肉薄攻撃艇の開発と戦歴』(潮書房光人社, 2014)の戦果一覧によれば、このリンガエン湾での戦果は、

■沈没(大破のち放棄含む)=4隻
歩兵上陸艇×2
戦車上陸艦×2(大破のち放棄)

■損傷=7隻
戦車上陸艦×1
駆逐艦×2
兵員運送艦×1
運送艦×1(味方同士の衝突)
高速輸送艦×1(味方同士の衝突)
戦車上陸艇×1(味方同士の衝突)

とあり、アメリカ側の正確な被害は「沈没四隻、損傷七隻」です。よって靖国神社のパンフレットは、アメリカ側発表すら「沈没六隻、大破二隻、損害八隻」に水増ししてしまっています。

マニラ湾における作戦(1945/1/30-31)

続いてパンフレットが戦果に言及するのは、1月30-31日に行われたマニラ湾での特攻です。この戦果は次のように記されています。

三隻目の㋹が駆潜艇の中央に衝突し、水線に二米の穴があき、転覆沈没した。

 特攻隊戦没者慰霊平和祈念協会(編) 『陸軍が行なった海上特攻:米軍を震撼させた挺進爆雷艇㋹』

この戦果はアメリカ側の資料でも確認され、正しい言及です。

沖縄における特攻作戦

慶良間海峡における作戦(1945/3/26)

ドンドン検討します。続いて靖国パンフレットには次のようあります。

慶良間海峡で米駆逐艦一隻を撃沈、輸送船二隻を撃破したとの戦果が報告されたが、米軍側の記録では、攻撃をすべて撃破し実質的な被害は無かったとなっている。

 特攻隊戦没者慰霊平和祈念協会(編) 『陸軍が行なった海上特攻:米軍を震撼させた挺進爆雷艇㋹』

木俣滋郎著書の戦果一覧によれば、機銃掃射による損傷程度だったそうです。大破一隻と献上しなかったところはエライと思います。

ハグシ沖における作戦(1945/3/31)

靖国パンフレットには次のようあります。

米艦隊を攻撃し、中型艦一隻を撃沈し、二隻を撃破した。……。米軍の資料によれば、…一隻が砲火を突破し五二〇噸のLSM12に衝突、船は中央に大穴をあけられ、応急処置で持ちこたえたが、4月4日に沈没した」

 特攻隊戦没者慰霊平和祈念協会(編) 『陸軍が行なった海上特攻:米軍を震撼させた挺進爆雷艇㋹』

木俣滋郎著書の戦果一覧によれば、四日後に浸水のため沈没したそうです。よって正しい申告をしています。

ハグシ沖における作戦(1945/4/9)

靖国パンフレットには次のようあります。

攻撃を実施し、駆逐艦一隻輸送船二隻を撃沈したほか火柱三を望見することが出来た。米資料によれば、「…駆逐艦チャールズ・J・バッジャーは、…爆発による機関室に大浸水が起こり、戦死者は出なかったが、…再び戦闘に参加し得なかった。……中型揚陸艦LSM89は体当たり攻撃を受けたが、被害は軽微であった。また駆逐艦ポーターフィルドも被害を受けた。㋹の攻撃にたいする射撃のため、各艦はしばしばお互いの流れ弾により被弾した。

 特攻隊戦没者慰霊平和祈念協会(編) 『陸軍が行なった海上特攻:米軍を震撼させた挺進爆雷艇㋹』

木俣滋郎著書の戦果一覧によれば、おおむね正しい親告ですが、駆逐艦チャールズ・J・バッジャーは修理後復帰していること、駆逐艦ポーターフィルドの被害は味方艦による誤射であるようです。

ハグシ沖における作戦(1945/4/15)

靖国パンフレットには次のようあります。

米軍艦艇を攻撃し、駆逐艦一隻艦種不詳一隻を撃沈、艦種不詳三隻を炎上させ、そのおかに火柱六を報告した。同日付の米軍資糧によれば、機雷掃海艇UMS31が㋹の攻撃で大破したとなっている。

 特攻隊戦没者慰霊平和祈念協会(編) 『陸軍が行なった海上特攻:米軍を震撼させた挺進爆雷艇㋹』

木俣滋郎著書の戦果一覧によれば、4月15日の被害は、機雷掃海艇YMS331に損傷となっています。

嘉手納沖における作戦(1945/4/27)

靖国パンフレットには次のようあります。

嘉手納沖の感染を攻撃し、輸送艦一隻、駆逐艦一隻を撃沈したと報告された。

 特攻隊戦没者慰霊平和祈念協会(編) 『陸軍が行なった海上特攻:米軍を震撼させた挺進爆雷艇㋹』

木俣滋郎著書の戦果一覧に一致する者は確認できませんでした。ゆえに靖国パンフレットでも日本側の報告だけを載せているのでしょう。

中城湾における作戦(1945/4/27-28)

靖国パンフレットには次のようあります。

中城湾に出撃したが、戦果は不明であった。米軍資料では、…駆逐艦ハッチンズ…終戦まで使用不能…。…ロケット砲艦LCS37は…大破した。

 特攻隊戦没者慰霊平和祈念協会(編) 『陸軍が行なった海上特攻:米軍を震撼させた挺進爆雷艇㋹』

木俣滋郎著書の戦果一覧によれば、これに加え上陸用舟艇LCVPを数隻沈没・損傷とあります。もっともLCVPはボートなので、靖国パンフレットでは戦果に含めていないのでしょう。

中城湾における作戦(5/3-4)

靖国パンフレットには次のようあります。

輸送船団を攻撃し、駆逐艦一上陸用舟艇二、大型輸送船三を撃沈した。

特攻隊戦没者慰霊平和祈念協会(編) 『陸軍が行なった海上特攻:米軍を震撼させた挺進爆雷艇㋹』

パンフ中にアメリカ側資料の言及がありません。木俣滋郎著書の戦果一覧によれば、貨物船一隻に被害があっただけとのことです。

まとめ

以上、靖国パンフレットに説かれる挺進爆雷艇㋹の戦果と、実際の戦果とを比較してみました。以下の用になるしょう。

  • 靖国パンフレット表紙の戦果:敵船艇を数十隻撃沈
  • 靖国パンフレットで具体的に紹介される諸作戦の戦果合計:撃沈15隻、
    損傷のち沈没1隻、大破のち放棄2隻(日本側発表に加えアメリカ側資料を掲示している場合のみ、アメリカ側資料の戦果を計上。また木俣滋郎著書によれば同諸作戦の戦果合計は撃沈4隻、放棄2隻
  • 水上特攻の全作戦を通しての戦果合計:沈没10隻、損傷のち沈没1隻、大破のち放棄2隻

戦果の計算というのは非常に難しくて齟齬が出やすいのですが、さすがに「敵船艇を数十隻撃沈」は大本営発表レベルのやけくそ水増しだとご理解いただけると思います。

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