【トンデモ】白人による世界制覇を防いだ日本人(安住順一『日本がますます好きになる歴史クイズ』明治図書出版, 2000)

保守的歴史クイズ

小中学校教育雑誌で「日本は、大東亜戦争で人類最高のよいことをしたのだ」(詳細)という衝撃タイトルの論文を発表した安住順一先生が、なんと『日本がますます好きになる歴史クイズ』という教育書を執筆されているという情報をいただき、早速入手してきました。

出版社の説明によると、本書は…

日本のすばらしさを子どもたちに少しでも味わってもらいたいという願いから作られた書。日本の伝統技術や特質のすばらしさを伝えられるような内容をたくさん掲載。また、日本人として、ぜひ知っておいてほしいすばらしい先人も紹介している。

「BOOK」データベースより

異文化理解を進めるためには当然自国文化を理解する必要がある。今まで曖味にしか思っていなかった日本文化の意義を歴史上の事実を通して鮮やかに示す。

「MARC」データベースより

とのことです。また本書の「まえがき」にも、著者の安住氏は、日本の歴史観を学ぶにあたって渡部昇一氏などの著書に感銘を受けたとの旨が記されており、既に読む前から内容に察しがつきますね。

『日本がますます好きになる歴史クイズ』の目次

百聞は一見に如かず。少々長くなりますが、まずは目次を見ていただきましょう。

これでもかというほど「日本スゴイ」アピールで溢れています…。歴史クイズと言いつつ記紀神話を取り上げたり(クイズ1, 2, 3)、二宮尊徳を持ち出したりするところに(クイズ39)、逃れることのできない戦前回帰の保守性が現れていますね。

白人による世界制覇を防いだ日本人!

このような日本礼賛本が、実際に学校教育で用いらているのか、どれくらい学校図書室に収載されているのかは解りませんでした。

日本礼賛すること自体は別に構いませんが、度を超した解釈が見られるクイズも多いように見られます。その典型例はクイズ45「世界の流れを変えた日露戦争――白人による世界制覇を防いだ日本人」です。なんと日露戦争が、白人による世界制覇を防いだ戦いと評価されています。

確かに、当時の日本・中国の両政府が、この戦争を白人vsアジア人という人種戦争に見立てて、悪役のロシアに対して中国と日本の連帯を図る言説をしていたことは事実です(吉澤誠一郎「日露戦争と中国」『日露戦争と東アジア世界』ゆまに書房, 2008)。

しかしそれらの言説は、戦争を正当化するための口実、いわば「大本営発表」です。 あたりまえですが日露戦争は朝鮮半島の利権を争って起きた戦いです。ですから、安住氏のように、(自らの思想理念に合致する)大本営発表だけを鵜呑みにして、「白人による世界制覇を防いだ」というのは明らかに極端な拡大解釈でしょう。

世界に感謝される日本スゴイ!世界を変えた日本スゴイ!

そして、日露戦争に関するクイズも明らかに変です。このクイズ45「世界の流れを変えた日露戦争――白人による世界制覇を防いだ日本人」には次の三問が置かれています。

Q1 日露戦争で日本がロシアに勝つと、大喜びして「東郷ビール」と呼ばれるビールをつくった国はどこでしょう。
 ア イギリス
 イ フィンランド
 ウ トルコ
Q2 日露戦争で日本がロシアに勝つと、大喜びして、生まれた男の子に「トウゴウ」や「ノギ」という名前を付ける人が多かった国はどこでしょう。
 ア インド
 イ フィンランド
 ウ トルコ
Q3  日露戦争で日本がロシアに勝ったのをきっかけに教育制度をかえた国はどこでしょう。
 ア 中国
 イ インド
 ウ フィリピン

正解 Q1 イ Q2 ウ Q3 ア 

日露戦争の本筋から離れたクイズであることは瞭然です。せめて日本海海戦の日本側の司令官は誰にして欲しいところです。「日本が世界から感謝されている」という点を強調したがるという点で、現代の保守運動の傾向と見事に一致しています。

この回答に対する解説も酷いものです。Q1の解説だけあげます。

この解説からも、著者の安住氏が読者に伝えたいことが、「世界に感謝される日本スゴイ!世界を変えた日本スゴイ!」に集約されることがお分かりいただけると思います。

果たしてこのようなクイズをして、本のタイトルにもあるような「楽しいクラスづくり」ができるのでしょうか。

なお、同著者による衝撃(?)の論稿「日本は、大東亜戦争で人類最高のよいことをしたのだ」の論評については下記を参照ください。

【トンデモ】「日本は、大東亜戦争で人類最高のよいことをしたのだ」(安住順一『現代教育科学』49(8), 2006, pp. 49-52)

2018.10.15

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