【トンデモ】TVゲームが脳を汚染する(『麻薬より怖い!?脳読①』美健ガイド社)

美健ガイド社のトンデモシリーズ

美健ガイド社の漫画シリーズは、トンデモ保守運動の一端を示す好例です。

前回は不良学校を「食育」で構成するスゴイ先生を紹介しました(参考リンク)。今回は、『麻薬より怖い⁉脳読①:TVゲームが脳を汚染する』(美健ガイド社, 2013)を紹介したいと思います。タイトルにある通り、TVゲームをやりすぎるとダメ人間になるという内容なのですが、ともかくそのトンデモ度が半端ないのです。

ゲーム漬けの子供たちを前にして父親は…

この物語は、家族がゲーム漬けなのを前に何も対策を講じられないパパさんの苦悩から始まります。

そんなパパさんが助けを求めるのは…

……。

まさかの自分の母親。いい歳して「お母さ~ん」とはこれ如何に。既にこの段階でこの家族に明るい未来が見えてきませんね。

で、すぐさま母親登場。

ゲームへの熱中度も凄まじいことは瞭然なのですが、ここではあえてパパさんに注目したい。部屋の掃除が行き届いておらず、頭を抱えて悩むのはよいのですが、なにゆえ自分で掃除をするという選択肢がなかったのでしょうか? このようなプロットの細部にこそ保守の精神が宿ることを見逃してはなりません。

ゲームの世界へ

で、結局お助けにきた母親)がゲーム漬けの惨状を非難するのですが、誰もそれに納得しません。に小言つつかれてもが納得することは有り得ないという暗示でしょうか。

そんなこんな結局説得に失敗した母親)の提案で、全員でこの問題に詳しい科学者のところに行き、不思議なマシンを使ってゲームの害毒を体験することに。

先ずゲームの世界に行きます。ドラクエのようなRPGの世界で、次々とモンスターをやっつけていきます。途中で、一人死んでしまうのですが、もちろんゲームですから復活の呪文があります。

復活して戦闘続行。

気軽にどんどん殺していけばいいんだよ」というセリフに、この漫画がどのようにストーリーを導いていくのかが透けて見えるというもの。普通「倒す」ですよね。そこを「(気軽にどんどん)殺す」と書き換えてしまう所に、印象操作の妙が感じ取れます。

過去の世界へ

ゲームの世界に続いていくのは、TVゲームが生まれる前の日本国です。

もちろん古き良き日本を愛する保守ですから、TVゲームの害毒から逃れるための答えは「古き良き日本」にこそあります。

その過去の日本で、その時代の子供たちとチャンバラごっこに耽ります。

……。

なおこの「ハイパーカッター」とはゲームの世界の必殺技のようで、この子はそれを現実世界でも使ってしまったようです。

まぁいろいろツッコミどころは有りますがそれは置いておいて、結局、ゲームだけで実戦経験のない現代っ子が、百戦錬磨の古強者たちに勝てるはずもなく、あっさりと全員打ちのめされます。

しかし敗北後のセリフが異常にオカシイ。

止めは刺さないの?」というセリフに最高レベルのインパクトがあります。いくらゲーム脳の危険性を説く漫画とはいえ、ちょっと現実離れしていて有り得ないでしょう。この子は普段、喧嘩とかしたらいつも相手に止めを刺しているのでしょうか?

また、止めを刺されずに命拾い(?)した少年のコメントも明らかにオカシイ。

いつも かったるかった」って普段いったいどういう生活を送っているんでしょうか(;゚Д゚)

TVゲームの害毒

このように実体験を通して、外で遊ぶ素晴らしさを知った皆。続いて語られるのは先生によるゲームの害毒です。これがほんと脅迫まがいレベル。

まずゲームをすると、前頭前野に悪影響を及ぼし、理性や道徳心を養えなくなると指摘。それだけならまだしも、電車内でのマナー違反までこれと結びつける暴挙に。

ゲーム漬けになると電車マナーが悪くなるなんて初めて聞きましたよ…。

そして、ゲーム漬けになると若年性痴呆状態を加速させる可能性が高いと指摘。

こんなデータがほんとにあるのか解りませんが、脅し度が半端ないです。

そしてゲーム中毒は麻薬患者と同じ症状になるそうです。

ゲームに限らず、読書やSNSだって中毒ともなれば心身に何らかの悪影響があるのではないかと思いますが、そういう分析はありません。ともかく目の敵はゲーム。

もちろん行き着く先は「犯罪」です。

このゲーム中毒によって惹起された可能性のある犯罪例として「寝屋川教師施設事件(2005)」「秋葉原通り魔殺人事件(2008)」などが紹介されるのですが、いずれも「犯人の少年はゲームソフトを数百本もっており」とか、「犯人が卒業文集にゲームキャラクターを描いたり」していたという程度のものです。こんな理論がまかり通ってはプロゲーマー集団は、心のバランスが崩れた犯罪予備軍とでも言わんばかりで酷いものです。

そして陰謀へ

こんなふうに妄想まがいのゲーム非難を繰り返したのち、最終的に闇の組織へとたどり着きます。

ゲームは「人類獣化計画」を推進している勢力による脳を犯す「脳読」の散布」という凄まじい陰謀論…。

ところでこの「人類獣化計画」を調べると、戦後日本を支配するためのGHQによる3S(セックス、スポーツ、スクリーン)政策の一つだとか、旧約聖書に基づくユダヤ人の陰謀だとか、トンデモ論が確認されます。

こういうトンデモを微妙に挟み込んでくるところが香ばしい。本気でこういう陰謀論を信じているからこそ、こういう何気ない微妙な言葉遣いの隅々に、「狙っていない」凄味が生まれているのでしょう。

大団円

こんな脅迫まがいのゲーム悪影響論や、「人類獣化計画」等という陰謀論を吹き込まれて、普通の人なら「え?(笑)」と思うはずですが、漫画の人物は本当に素直。これを全て信じて、ゲームをやめ、子供たちはサッカーを、嫁は家事をやらねばならないと宣言します。

にしても、ここまで現実感の無い家族をモデルにして、現実感の無い会話を繰り返して、現実感の無い陰謀論を語って、信じる人などいるのでしょうか?

……

本当にいるからこの世は摩訶不思議なのだと思います。

3 件のコメント

  • これはとんでも話ですが、幼少時よりゲームに依存している子供は確かに増加しています。依存症としては成長期の児童になんらかの影響を与えているのは教育に携わる者としての実感です。

    • >匿名さん 2018年12月1日 7:00 PM
      この手の議論って、「ゲームに対する依存が危険か否か」という視点でしか語られない傾向があるんで、どうしても感情的な神学論争になってしまいがちなんですが、本当は「何かに依存して時間を消費する事でしか、現状の生を受け容れられない」という「依存症状態」自体が大人、子供問わず人間にとって非常に不味い事なんだろうなと個人的には思っています。

      依存対象が現時点でたまたまゲームというだけで、将来それが別の文物に置き換わる形で人生の中で何度も何度も繰り返し現れてくるっていうのは、自身の経験からも実感していることですし・・・。依存の対象を紋切り的に悪だと断じて排除しようとするのではなく、個々人が持つ「依存体質」に真摯に向き合って克服の為の手を差し伸べたり、自分自身も「自己の中にある依存気質」を自覚した上で、常に依存に陥らぬよう自戒しながら様々な文物に接していくようにする事が大事なのではないかとも思います。

      依存気質を持つ子を見ると心配になるのは誰もが当然と思いますが、依存の際の「のめり込む力」をきちんと自分で制御できるようになれば、「強烈な集中力」という形でプラスの方向に作用させることも不可能ではないと私個人は信じています。教育者として、依存を抱えるお子さんたちをより良い方向に導いていけることを願っています。

  • この本のテーマとはそれなりに外れるし、そもそもビジネス保守界隈を語る中では言及される事自体が少ない事物ではあるんですが、「脳を汚染する」という意味では、いわゆる「萌えミリ」界隈の文物のネトウヨ層の脳を汚染してる割合って、決して少なくないんじゃないかとは思ってます。特に日本海軍や海上自衛隊を異常な位賞賛している日本SGEEEEEな人たちとかは・・・。
    そういったモノが取っ掛かりになって「光も闇も包括した『史実』に興味を持っていく」のならまったく問題ないと思うんです。でも、そういったモノへの偏愛と相互増幅する形で「歴史の曲解や他国に対する増長、自国の実力に対する妄想や慢心」が増大していくのだとしたら、この本が唱える説とは別の意味で「危険」だと思っています・・・。

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