【トンデモ】自己犠牲の精神は日本人のDNAに刻まれている(服部剛『教室の感動を実況中継!先生、日本ってすごいね』高木書房, 2015)

道徳教育で「日本スゴイ!」を教えてしまう先生

公立中学校の教諭を務めておられる服部剛先生は、ご自身の教育現場での出来事をまとめて幾つかの書籍を刊行しています。

これまでにもその著作のなかから、特攻的自己犠牲がまるで崇高な道徳であると教えてしまう授業や、昭和天皇を「神に近い存在」とまで言わせてしまう授業を紹介しました。

【トンデモ】天皇は「神に近い存在」と言わせてしまう中学授業(服部剛『教室の感動を実況中継!先生、日本ってすごいね』高木書房, 2015)

2018.10.26

【トンデモ】特攻隊から感謝を学ぶ授業(服部剛『先生、日本のこと教えて:教科書が教えない社会科授業』扶桑社, 2005)

2018.10.24

今回は、『教室の感動を実況中継!先生、日本ってすごいね』(高木書房, 2015)という、道徳の授業で「日本スゴイ!」をひたすら教えてしまう記録の中から、「空の武士道」という授業を紹介したいと思います。

自己犠牲の精神はどこからくるのか

空の武士道」という授業で用いられる教材は、1999(平成11)年11月22日に起きた自衛隊機墜落事故です。この事故ではパイロット二人が殉職されました。さらに飛行中にエンジントラブルが起きてからパラシュート脱出するまでに20秒間の空白があり、二人のパイロットが自衛隊機を市街地に墜落させたないために脱出を遅らせたことが明らかになっています。

これだけなら自己犠牲精神の道徳の教材として問題ないように思うのですが、この先生が語り出すと、ともかく話が大きくなってズレてしまう。

なんと、この二人のパイロットの精神は「武士道」であり、我々日本人のDNAの中にあると言い出します。

この様な行動は日本人のDNAの中にあると思います。『武士道』というか、長い時間をかけて歴史の中でつくりあげた日本人の精神、あるいは国民性と言っていいかもしれません。

 服部剛『教室の感動を実況中継!先生、日本ってすごいね』高木書房, 2015, p. 213

安易に自己犠牲の精神の由来を、DNAとか、歴史とか、国民性とか先天的要因に帰してしまっていることに問題があります。

というのもアメリカ人だって自己犠牲は大いに賞讃され、多くの物語をつくってきました。たとえば、マイケル・マーフィ大尉は2005年のアフガニスタン紛争で仲間を救うために奮戦したために殉職し、名誉勲章を受けています。

このように、自己犠牲の精神は、世界中どこでも見られるもので、決して日本人固有の道徳性ではありません。あくまでこの二人のパイロットの精神が崇高なのであって、日本人性が崇高なのではありません。むしろ、日本人性を理由にして、この二人のパイロットを行動を説明してしまうことこそ、その精神を貶めることにつながるのではないでしょうか。

マスコミ批判と微妙にずれた感想

またこの先生は、この事故の新聞報道について、トップ記事に自己犠牲の崇高な精神を称賛する文字が無いことを問題視し、「マスコミや自治体は、二人の自衛隊員が脱出に失敗して死亡した理由を伝えようとも、知ろうともしませんでした」とマスコミ批判をします。(ただし、これは正しくないようです。Wikipedia(リンク)などの情報によれば、各種新聞とも自己犠牲について報道しているようです)

そこで続いて先生は、このように新聞の報道状況には問題があるとして(やはり生徒たちに見せるのは朝日新聞です)、生徒たちに相応しい記事見出しを書くように指示します。

しかし生徒たちが考えだした見出しは、どうも焦点ずれている気がしてなりません。次のようにあります。

生徒が考えた見出しは、墜落事故の真相と核心に迫るものになった。
「二人のパイロット 国民の命を守る」
「住民の死傷者0 国民のため、空自機の住民二人死亡」
「自分の命と引き替えに 人命助けたパイロット」
「生命の危険かりみず 住宅地を死守」
「エマージェンシー! 住民の被害なし」
「パイロットの決断 住民全員無事」


素晴らしい見出しができましたね!

 服部剛『教室の感動を実況中継!先生、日本ってすごいね』高木書房, 2015, p. 214

何一つとして「墜落事故があった」という事実を伝えていないという恐るべき偏向報道になっています。先生の教育によって、起こった事実が見えなくなってしまい、崇高な美談だけがクローズアップされてしまっています。

まとめ

極限の状況で、民間人への被害を防ぐために自らの命を顧みなかった二人のパイロットの行動は、まさに尊い自己犠牲の精神であると私も思います。

しかしその尊い精神の由来を、DNAとか、歴史とか、国民性とか先天的要因に帰してしまっていることは、逆にその尊い精神の価値を貶めてしまっているように思います。あくまで尊い精神の持ち主はこの二人のパイロット自身なのであって、日本人全員が尊い精神を先天的に持ち合わせているわけではないのですから。

このように保守イデオロギー的授業は、どうも内容にズレがあるような気がしてなりません。このようなイデオロギー授業は、同氏によるものだけでなく他の教員によってもなされています。その仔細については、下記のリンクを参照ください。

【トンデモ】特攻隊から道徳を教える(大角勝之「特攻隊の遺書から授業で無私を教える」『思春期に「無私」を教える道徳授業』明治図書, 2006)

2018.10.23

【トンデモ】「日本は、大東亜戦争で人類最高のよいことをしたのだ」(安住順一『現代教育科学』49(8), 2006, pp. 49-52)

2018.10.15

2 件のコメント

  • >この様な行動は日本人のDNAの中にあると思います。『武士道』というか、長い時間をかけて歴史の中でつくりあげた日本人の精神、あるいは国民性と言っていいかもしれません。
    って言ったのは、殉職されたパイロットの同期の自衛官じゃなかったでしたか?

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