【トンデモ】南京大虐殺は無かった?(百田尚樹『日本国紀』幻冬舎, 2018)

歴史戦の最前線

とうとう注目の叙事詩、百田尚樹『日本国紀』(幻冬舎, 2018)が発売されました。「ヒストリーの語源はストーリーです」などと、ポストモダン哲学顔負けの売り文句が眼を引きます。

確かにポストモダニストが主張するように「歴史は物語である」かもしれません。しかしこの本の戦略は「物語が歴史である」であり、我々に問われている課題は「物語が歴史であっても良いのか?」でしょう。

大変読みやすい本であると思いますが、本書中の「コラム」についてはやや(かなり)問題の有る記述が多いように思いますので、それを順次取り扱っていきたいと思います。

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2018.10.28

南京大虐殺はなかった

結論的に言えば(予想通りですが)百田氏は次のように述べています。

「なかったこと」を証明するのは、俗に「悪魔の証明」といわれ、ほぼ不可能なこととされている。つまり、私がここで書いたことも、「なかったこと」の証明にはならない。ただ、私がここで書いたことも、「なかったこと」の証明にはならない。ただ、客観的に見れば、「『南京大虐殺』はなかった」と考えるのがきわめて自然である。

 百田尚樹『日本国紀』幻冬舎, 2018, p. 372

一見この主張は正しいように受け取られてしまうかもしれません。しかし、その理論の幾つかには問題があります。というのも、規模の大小は別として、虐殺的行為が行われた証拠はかなり多くありますが、それを知ってか知らずか一つも提示していません。むしろ「悪魔の証明」という言葉は、これら証拠を検討しないための「逃げの口上」のような気がしてなりません。

以下に百田氏が挙げる根拠を検討していきます。

百田氏による南京大虐殺否定論の根拠

百田氏による否定論は、主に次の五点から成り立っています。その内容と問題点を指摘します。

  1. 当時、南京大虐殺を報道したのは、ティンパーリとアメリカ人記者ティルマン・ダーディンだけで、それも伝聞である。(問題点:日本側の日記や通信記録などにも、規模の大小は別として虐殺行為があった旨が記録されている。たとえば百人斬り事件などは、無意味に捕虜を据え切りにしている)
  2. 人口調査によれば当時の南京には20万にしかいなかった、にもかかわらず占領した一月後には25万人になっている。(問題点:農村部の人口を加味していない)
  3. 当時の報道カメラマンの撮った写真は和気藹々としていて虐殺現場など写っていない。(問題点:報道規制があり軍部に都合の悪い写真は新聞などに掲載できなかった時代背景を考慮すべき)
  4. 便衣兵(民間人に化けたゲリラ兵)はいて、日本軍はそれを見つけるたびに処刑していたから、「中には便衣兵と間違われて殺された民間人もいたかもしれない」(p. 370)。
  5. 一部の日本兵による殺人や強姦などの事件はあったが、それは大虐殺ではない。戦時中は平時よりも犯罪が増えるのは当たり前だから、南京で百例・二百例ほど事件が起きても代が約冊を証明しているわけではない。
  6. 今の南京大虐殺の虚構をつくりあげたのは戦後日本のマスコミである。

このように百田氏は述べていますが、注目すべきは④の太字にした部分です。つまり便衣兵の中に民間人がいたこと暗に認めており、実はこれは南京大虐殺の有無を語るうえで重要な論点です。というのも、まともな裁判などせずに便衣兵認定して次々と処刑していたわけで、便衣兵掃討は戦闘行為の延長であったとしても、無辜の一般人を殺傷していたことに変わりはありません。

恐るべきことに百田氏は、南京大虐殺を否定しておきながら、重要な論点の一つを否定するどころか「中には便衣兵と間違われて殺された民間人もいたかもしれない」と述べて民間人被害を暗に認めています。実は百田氏も南京大虐殺はあったと本心では思ってらっしゃるのかもしれません。(まさか)

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2 件のコメント

  • 2人口調査によれば当時の南京には20万にしかいなかった←安全区の人口だけであり正確な数字ではなく流動的なもの
    南京事件は民間人のみではなく捕虜の虐殺も含まれている、等論外な主張
    中国ですら民間人のみ30万虐殺などとは主張していない。軍民合わせてとなってる

  • 「調査によれば本市(南京城区)の現在の人口は約50余万である。将来は、およそ20万と予想される難民のための食糧送付が必要である」(37年11月23日南京市政府が国民政府軍事委員会後方勤務部に送付した書簡)
    ——岩波新書『南京事件』

    こういうのは中国側の史料だから無視したのかしら

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