【トンデモ】「潜伏キリシタンは反日世界遺産?」(大高未貴|『正論』562, 2018.9)

日本を少しでも批判的に言及すると反日

保守というのは本当に不思議な生き物で、日本のことを少しでも批判的に言おうものなら、たとえそれが事実であろうとも「反日」認定してしまいます。このような無批判・無反省ゆえに、今日の保守論壇は「日本スゴイ」の自画自賛で満ち溢れていて不健全な状態です。今回紹介したいのは、そんな反日認定の愚かさと醜さを象徴するような記事です。

具体的に取り上げるのは大高未貴「「潜伏キリシタン」は”反日”世界遺産?」(『正論』562, 2018.9)というやつで、その中で大高氏はなんと「長崎於天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界遺産に登録された背景には闇があると言い出すのです。

6月30日、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産委員会で、「長崎於天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(長崎、熊本両県)を世界文化遺産に登録することが正式に決定されたが、そこには深い闇があるように思えてならない。

「何が問題なのか」に見られるズレ。

このように大高氏は、潜伏キリシタンが世界遺産に登録された背景には闇があるという陰謀論を展開します。何が彼女をそうさせてしまったのか、と言えば、この世界遺産を通して「日本の負の側面」が印象付けられてしまうことを危惧しているからのようです。

一番の問題は、「潜伏キリシタン」に焦点をあてることにより、明治以前、キリシタンが豊臣秀吉や江戸幕府によって弾圧されてきたという日本の負の側面が世界の「文化遺産」と印象づけられることになったのだ。

これは杞憂としか思えません。人権意識が希薄であった近世において、現代からすれば残酷な行為が行われていたのは世界中どこも同じです。今更、数百年前にキリシタン弾圧をしていたことを知ったからといって、現代の日本をネガティブに思う人など殆どいないでしょう。

キリシタン弾圧はイエズス会の奴隷貿易が原因

この様な問題点を指摘した後、大高氏は「キリシタン弾圧はイエズス会の奴隷貿易が原因」論を次のように主張し出します。

秀吉は、イエズス会が長崎を拠点に日本侵略を目論み、なおかつ日本人が奴隷として売買され、アジアや欧州に送りこまれていたことに激怒し、伴天連追放令を出したのだ。……

文化庁がユネスコに再提出した膨大な英文資料の中に、上記したような説明は一切出てこない。

つまり大高氏は「西洋が先に非道な行いをしていた。キリシタン弾圧を生み出した原因は西洋にこそある」と主張することで日本弁護をしたいのです。

ですが西洋人の振る舞いがどの様なものであれ、近世日本においてキリスト教徒が弾圧され、それを逃れるために潜伏して生き延びた事実に変わりはありません。そしてこの事実こそが重要なのです。このことは、大高氏が入れたクレーム(こういうのホントにやる人いるんだ…)に対する文化庁回答に見事まとめられています。

「世界遺産に登録にあたって伴天連追放令を出した理由などはあまり重要ではなく、あくまでも250年潜伏していた潜伏キリシタンの存在そのものに価値があるのです」

また、先ほど述べた大高氏の「キリシタン弾圧はイエズス会の奴隷貿易が原因」論には、いささか誤解を招く表現がありますので但し書きしておきます。というのも、確かに豊臣秀吉が伴天連追放令を発付した理由のうちに、日本人奴隷売買問題は重要な要素として数えられていました。しかしこれは豊臣政権下の出来事であって、江戸期の潜伏キリシタンとは直接関係のないものです。

なぜなら江戸幕府(徳川家康)は、当初キリスト教を黙認しており教会建設や布教の許可を与えています。江戸幕府が本格的な禁教令を出したのは、キリシタン関連の事件をめぐり収賄事件が発覚したことがきっかけです(岡本大八事件)。したがって江戸期の禁教令は、ヨーロッパ諸国の奴隷貿易を直接の原因としていないことは明らかです。このように大高氏は、不注意か故意か解りませんが、「豊臣政権下のキリシタン弾圧」と「江戸期の潜伏キリシタン」の原因を混同して論じてしまっています。

日本に関する間違ったイメージ??

またさらに大高氏は、この潜伏キリシタンの世界遺産によって、世界に誤解が広まる恐れがあると次のように述べます。

このままでは、「日本は宣教師とキリスト教徒をむやみやたらに迫害した野蛮人」という誤解がじわじわと国際社会に拡散されかねない。日本が汎神論、八百万もの神々が共存し、他の宗教にも寛容の精神を持っていた国柄であるということは理解されず、誤解だけが広まっていく。

……。「日本が多神教で他の宗教に寛容な精神なら、そもそも250年間もキリシタン弾圧なんて起こらなかったでしょ!」「なんで明治期に廃仏毀釈が起きたのよ!?」などとツッコまずにはいられません。明治期に入って信教の自由が認められた後ですら、キリスト教は様々な形で弾圧を受けていました。

上智大生靖国神社参拝拒否事件

2018.10.17

大高氏には、古代から現代に至るまで日本人は温和で善良でなければならないという強迫観念があるようです。どうもこのような強迫観念の背後には従軍慰安婦問題が横たわっているようです。たとえば、潜伏キリシタンのパンフレットで、「共生」の語を「co existance」と訳さず「while surviving in the midst of」(~にもめげずにサバイバルした)と訳したことに不満を申し立て、さらに韓国で元慰安婦が「サバイバー」と呼ばれていることと「実に奇妙な一致だ」と陰謀論を巡らしています。大高氏は、「潜伏キリシタンの世界遺産登録が、日本人の残虐性を広告し、慰安婦問題の議論を有利に進めるための歴史戦だ」とでも思っているのでしょうか?

クレーム姫と自省の美徳

さらにパンフレットなどの資料のみならず、わざわざ大高氏は現地に出かけ資料館に展示されたパネルの文言にも文句を付け出します。

「徳川幕府のキリシタン検索制度はその方法が緻密厳重を極めたこと、二世紀半の長期にわたり、止むことなく続けられた事で、世界の歴史に比類ない、異常な非人道的な制度であった」とある。「世界の歴史に比類ない」?
奴隷貿易・魔女狩り・十字軍遠征といった歴史に比べても、非人道的だと言えるのか? 疑問を抱かずにはいられなかった。

御説ごもっとも。確かにパネルにある「世界の歴史に比類ない」という形容句は、何らかの客観的なデータに基づいたものではなく、書き手の主観でしょう。そして、これを読んだ者が、奴隷貿易・魔女狩り・十字軍遠征の残酷さと比較してしまうことも十分に起こり得るでしょう。

しかし西洋諸国は奴隷貿易・魔女狩り・十字軍遠征が残虐であったことを認め、反省の言葉を表明している事実を直視すべきです。たとえば十字軍は当時のキリスト教徒にとって聖戦でしたが、今からすれば侵略戦争でしかありません。その事実を受け止めヨハネ・パウロ2世はこれを謝罪し、むしろ賞讃されました。

是非、保守にはこの精神を見習って頂きたい。なぜそれが出来ないのか。過去を振り返り、キリシタン弾圧の残酷さと、潜伏キリシタンの力強さを教えることは、現代にあってはむしろ美徳ではないでしょうか。(保守に言わせば、それは美徳ではなく自虐史観なのでしょうけど…)

なお、保守界のプリンセス・杉田水脈氏も、この大高氏の妄言に賛同しておられ「同じ穴の狢」だと確認させられます。このような姿勢は、事実を隠して日本スゴイだけを世界に広めようと殆ど同義です。

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